(注:本稿は、2020年に初投稿したものの再録です。)
以前参加していた野中郁次郎氏主宰フォーラムの事務局から送っていただいた本です。
最近はいわゆる「ビジネス書」は全くと言っていいほど読んでいません。野中氏の著作も久しぶりです。
この本は、かなり長い間“積読”状態になっていたのですが、新型コロナウイルスの影響でいつも行っている図書館が長期間閉館されて、手元に読む本がなくなったので改めて手を伸ばしたものです。
内容は、近年の野中氏の論考のメインコンセプトである “フロネシス” の視点から、ノルマンディー上陸作戦に関わる人物が下した数々の決断の場面を考察したものですが、前半のかなりの部分は、ノルマンディ―上陸作戦の詳細なノンフィクション的記述が続きます。
その中で、ところどころに「戦略」「戦術」「組織」といったマネジメント色が感じられる解説が挟み込まれています。
たとえば、アメリカ軍とイギリス軍の対比について。
もうひとつ、
「消耗戦」と「機動戦」とは対置される戦術ですが、両者は現実的な適用においては、相互補完的な関係にあります。敵を固定化する消耗戦(通常兵力)と敵陣を突破する機動戦(臨時兵力)のタイムリーな合体が、ノルマンディー上陸作戦でも連合軍に大きな成果をもたらしました。
また、本書では、ノルマンディ―上陸作戦をはじめとする第二次世界大戦を舞台に活躍したチャーチル・ルーズベルト・アイゼンハワーといった当代一流の人物像についても、その特徴的な人間力を紹介しています。
野中氏が唱える「人間力」にかかる主要概念は “フロネシス” です。
“フロネシス”は通例では「賢慮」と訳されるようですが、野中氏は「実践知」と呼んでいます。
アリストテレスは「ニコマコス倫理学」において、知識を「エピステーメ(形式知)」「テクネ(暗黙知)」「フロネシス(実践知)」に分けて説明しています。「形式知」と「暗黙知」の相互変換螺旋運動によるイノベーション創出を促進するものとして「実践知」があるとの文脈です。
この実践知は優れた判断を下すに必須の要素ですが、「実践知を有する未来創造型リーダーに必要な能力」について、野中氏はこう解説しています。
本書ですが、ノルマンディー上陸作戦の戦略・戦術の詳細にも興味がある方は、第一章からじっくり読み進めていけばいいと思いますし、ノルマンディー上陸作戦を材料にした戦略論・リーダーシップ論に関心のある方は、第7章・第8章から読んでみるというアプローチの仕方もあるでしょう。
いずれにしても、“知識創造に係る実践的ストーリーテラー” としての野中氏の面目躍如たる中身の濃い著作だと思います。