炭素文明論 「元素の王者」が歴史を動かす (佐藤 健太郎)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
新聞の書評欄で紹介されていたので手に取ってみました。
タイトルが体現しているようにとてもユニークな視点の著作です。
炭素を中心とした「化合物」はそれこそ山のように存在します。
炭素を基本とした「有機化合物」の多くは柔らかくしなやかな性質をもっています。
これは、水素が炭素の骨格を包み込むように存在することによるものであり、この柔らかさが、生命の根源となり、また人間の生活に密接に関係する物質を生み出しているのです。
本書に登場する炭素化合物は、「デンプン」「砂糖」「芳香族化合物」「グルタミン酸」「ニコチン」「カフェイン」「尿酸」「エタノール」「ニトロ」「石油」などですが、著者は、これらが人類の歴史・人間の生活に及ぼした大きな影響を興味深い実例を多数示しながら紹介していきます。
これらの切り口や具体的なエピソードはとても面白いものです。
特に、「それぞれの炭素化合物がそのときの権力を持つ人物や国家と結びつき、それらのプレーヤーの行動に対する動機づけを行ったことがまさに新たな歴史を形作った」との考察は、それ自体がひとつの“化学反応”ともいえるもので、私にとって新たな気づきを与えてくれました。
そしてもうひとつ、著者は本書で重要な指摘を行なっています。
それは、地球上の“資源問題”についてです。
この危機的状況を回避・打開するためには、もちろん革新的な研究開発の成果が必要不可欠です。ただ、今の現実社会には、それを目指す研究開発の優先順位・方向づけを、科学者の関心の行方のみに任せるほどの余裕はないのです。
全世界的見地からのロードマップの提示が、全地球的観点からの喫緊の課題だということです。