「利他」の生物学 適者生存を超える進化のドラマ (鈴木 正彦・末光 隆志)
(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)
いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。
進化や生物の不思議については結構関心があるので、気になって手に取ってみました。
著者の鈴木正彦さんは植物学者、末光隆志さんは動物学者で、お二人の共同作業で動植物の様々な “共生” の姿を紹介してくれます。
興味深い話が多々ありましたが、その中から特に印象に残ったものをいくつか覚えとして書き留めておきます。
まずは、第二章「ミトコンドリアと葉緑体を飼いならす」の章で紹介された「真核細胞とミトコンドリアの共生」の意義について。
ミトコンドリアとの細胞レベルでの共生は、生命の進化における “エネルギー革命” だったのです。
もうひとつ、第四章「依存しきって活きるには」の章で紹介されたのは、深海の熱水噴出孔付近に棲む「チューブワーム」です。
共生による「独立栄養状態」の実現 → 動物の “植物化”。とても興味深い話でした。
そして、最後は、人間にとってとても有益な「細菌の利他行動」。
葉緑体の炭素固定能力、根粒菌の窒素固定能力・・・、人類の科学は日々進歩しているとはいえ、まだまだ “未知なる生命力” には遥かに及びません。自ら生成できないのであれば、まずは、せめてこれらの生命の力をうまく活かすことに注力すべきです。
自ら産み出しえない能力をもつ貴重な生命を絶やすのは、いとも容易いことです。地球環境を破壊し続けている人間がその愚を改めるに、一刻の猶予もないのだと強く思います。
本書で紹介された宿主特異性を示す「共生関係」は “ひとつの生命体” としてのエンティティを拡張するもののようです。そして、そうやって拡がりを示す “共生生態系の連鎖” は、さらに大きな「生命体」を形作っていきます。
「共生」というコンセプトを取り上げて、この「地球」という “私たちをも包含した生態系” を維持する重要性を訴えた本書は、地球環境保全が声高に叫ばれている今に相応しい刺激に満ちた良書でした。