見出し画像

経営思考の「補助線」 (御立 尚資)

 御立尚資氏の著作は、以前「戦略「脳」を鍛える」を読んだことがあります。平易な書きぶりで分りやすい著作でした。

 さて、本書は、日経ビジネスオンラインに連載されたコラムをベースに加筆修正して、1冊の本にまとめたものとのこと、ここ1~2年の経済状況をとりあげた「ビジネス・エッセイ」です。
 「潮目の変化」「その変化への対応」「変化を乗り切るリーダーシップ」という大きな3つのテーマにそって、御立氏が、自在に語ります。

 その中で、いくつか私の興味を惹いたところを覚えに記しておきます。

 まず、ちょっと前に流行った「CRM(Customer Relationship Management)」についてです。
 CRMの効用に対する懐疑ではなく、新たな切り口からのCRMの活用を提案しています。

(p59より引用) CRMの特徴の一つは、「データの入手先」と「データを使ってメリットを得る先」が必ずしも一致しないことだ。・・・
 これを逆手に取って、「自社・自店で売っていないものもお薦めし、何らかの形で、その売り手から対価を得る」というところまで視野を広げた方が、CRMの成功に近づくのではないかと思う。

 CRMデータにもとづくクロスセル・アップセルの対象範囲を自分の製品/サービスに限定しないという発想です。うまくパートナリングが組めれば、お客様にもメリットのあるWIN-WINの仕掛けができますね。

 次は、「規模のリスク」について。
 これは、昨今の金融システムに関する話題のなかで指摘されています。

(p96より引用) 規模が拡大すると、それまでは問題とされていなかったさまざまな『力』、特に構造物そのものの自重の作用で、システム全体が崩壊するおそれがある・・・
 また、リスクを軽減させようとして追加的に打った手が、逆に大きな問題を生ぜしめる、という例も出てくる。

 規模が大きくなると、その対応には想定以上の「安全係数」をかけておく必要があるとの示唆です。

 最後は、自己の資産のみならず「他者の資産」を活用しようという視座の転換の例です。

(p140より引用) 「企業が自分自身のアセットプロダクティビティ改善を考える」のではなく、「顧客のアセットプロダクティビティ改善を考える」という視点で取り組めば、まだまださまざまなビジネスモデルが誕生する余地は大きいと考えられる。

 カーシェアリングやグリッドコンピューティング、スマートグリッドのように他者の遊休資産や余剰資源を活用してシステム全体としての生産性の向上を図るというアイデアです。
 これらは、省資源・地球環境保護という世界的なトレンドにも合致したもので、ITの進歩・ネットワーク化の進展にともない実現性は急速に拡大しています。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集