歴史を動かした会議 (加来 耕三)
ひとつの「会議」の成り行き次第でその後の歴史が大きく変わった、そういう実例を数多く紹介し、その中から「会議」を有利に導くためのポイントを紹介しています。
会議に臨んでは「根回し」「かき回し」といった調整・折衝手段が、平場でもしくは裏舞台で登場しますが、本質は如何にして議論のリーダシップを自らの掌中に納めるかというパワーゲームでもあります。
しかしながら、もちろん会議の場で働くのは、文字通りの物理的パワーではありません。権威や論理のパワーであり、そこには説得・納得という要素も関わってきます。
会議の発言者は、みずから是としている論理で論陣を張ります。その論理のベースには、自らが当然のことと考えている思考基盤があります。
「社会通念」はあるコミュニティでは共通の思考基盤たりえますが、コミュニティが異なると通用しません。相手の「社会通念」そのものを否定することは、相手の論理構成を根本から崩す有効な攻め口となります。
著者は、「海防」をテーマにした幕末の御前会議における勝海舟の議論を、このパターンの実例として紹介しています。
ところで、勝海舟といえば、江戸城開城をめぐる西郷隆盛との会談(会議)が有名ですが、それに関して、本書では興味深いエピソードが紹介されています。
それは、勝・西郷会談以前に、西郷としては江戸城攻撃の中止を決断していたというものです。
勝との会談の前日にこのパークスの抗議の情報を聞いて、西郷は戦闘意欲をなくしていました。勝がこの情報を得ていたか否かは定かではありませんが、このケースのように、いくつかの会議は、それが開かれる前にすでに結論が見えているものも数多くあるのです。
本書は、どちらかといえば、そういう事前準備の巧拙がその後の成り行きの明暗を分けた例を多く紹介しているように思います。
ただ、それは「根回し好き」という日本人的行動スタイルとして指摘しているのではありません。会議を成功に導くための(海外も含めた)普遍的な秘訣として論じているのです。
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