ワイドレンズ(ロン・アドナー)
(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)
この手のイノベーション論の著作は数多く出ていますね。正直食傷気味ではありますが、本書は具体例として登場している商品・サービスが比較的身近で新しいので、ちょっと興味をもって手にとってみました。
著者の問題意識は「はじめに」の章で端的に示されています。
すなわち、
との主張です。
著者は、多くの従来型成功企業においてはこの「イノベーション・エコシステム」の管理が苦手だと指摘しています。
こういった企業の過去の成功体験は、しばしば、画期的な新技術や革新的商品の開発といった自社に閉じたリソースの活用に拠るものでした。今日のような複雑なバリューチェーンを辿る“エコシステム”は、その成功の必要条件にはなっていなかったのです。
著者は、この“エコシステム”を前提としたイノベーション戦略を遂行するにあたってリスクとして3つ挙げています。
この3つのリスクのうち、本書では後の2つ「コーイノベーション・リスク」と「アダプションチェーン・リスク」について採り上げて、数多くの実例を挙げながら詳細に論じています。
このリスクがまさに今日における「イノベーションを活かすための『死角』」であり、それを照らす「ワイドレンズ」が必要だと説いているのです。
本書で展開されている著者の主張は、とても参考になるものです。
その中からいくつか書き留めておきましょう。
まずは、“エコシステム”における「リーダーシップ」について論じている部分です。
“エコシステム”のフォロワーも含めた構成メンバ全員が「利益」を享受するスキームを自らリスクを取りつつ作り上げ、そのスキームに関係者を巻き込んで成功に導いていく、これが新しいリーダーの役回りなのです。
従来型成功企業におけるリーダー像とは全く異なりますね。面白い指摘です。
さて、もう一点は、現代のイノベーションを生む“エコシステム”を構築する3つのステップについて。
この道筋をたどって画期的な成功を収めたのが「アップル」でした。
スティーブ・ジョブズがまず立ち上げたMVEは、「ipod」+「アップルストア」+「iTunes」という生態系。
ここに最初の拡張としてiTunesミュージックストアが加わり音楽業界の巻き込んでいきます。そして、本格的な拡張が「iphone」の投入。
さらにiphoneのエコシステムを継承したのが「ipad」で、今度は出版業界もアップルのエコシステムに取り込まれていったのです。
ソニーのWalkmanやセハンメディアのmpman、ノキア、パーム、RIMの高機能携帯電話・・・、それらの単体としての機能・性能はアップルの機器に大きく劣ったものではありませんでした。
しかしながら、そもそものストラテジックコンセプトに絶対的な差があったということです。