男子の本懐 (城山 三郎)
先日、浜口雄幸氏の遺稿ともなった「随感録」を読んだのですが、そこに顕れた浜口氏の質実剛健・実直な姿勢には大きな感銘を受けました。
本書は、その流れで手に取ったものです。
主人公は、浜口雄幸氏と井上準之助氏。二人は、第一次大戦後の混乱収拾期、経済財政面での最重要案件であった金輸出解禁に、まさに命懸けの決意で望み断行しました。
財政政策としての金輸出解禁の評価は、ほぼ同時期に発生した世界大恐慌の影響もあり、必ずしも高いものではありませんが、一国を預かる政治家が、口先だけでなく真に一身を投げ打って自らの信念を貫いた生き様には心を動かされます。
浜口氏と井上氏は、静と動、表面的には正反対といってもいいようなパーソナリティとして描かれていますが、共通するところは「信念への決意と執着」です。その信念にお互いが共感し「同志」としての絆を深めていきます。
凶弾に倒れた浜口氏が、数ヶ月にわたる闘病生活の後、遂に亡くなったとき。
政治家の言う「命懸け」とは、彼ら二人の覚悟と同じ場に至ってはじめて口にすることがきる台詞でしょう。
そして、こんなくだりもあります。
それにつけても、今の政治家の何と志の貧しいことか・・・、とはいえ、政治家の責任だけに押し付けることも正しくないでしょう。
私たちにも、そういう不甲斐ない姿を批判できる志の高さがあるか、自省です。