逸楽と飽食の古代ローマ―『トリマルキオの饗宴』を読む (青柳 正規)
(注:本稿は、2014年に初投稿したものの再録です)
上の娘が、大学の講義で使うとのことで図書館で借りてきた本です。ちょっと面白そうだったので読んでみました。
案内によると、本書が扱っている「トリマルキオの饗宴」は、古代ローマ時代の風刺小説「サテュリコン」の最も有名な場面とのこと。主人公のトリマルキオは、成功して財を成した大富豪の解放奴隷です。
本書において、著者の青柳正規氏は、トリマルキオが催した饗宴の様子の描写を取り上げて、その背景や意味するところを克明に解説していきます。
その内容は、饗宴に供された料理の細かな解説もあれば、トリマルキオの振る舞いから読み解くことのできる当時のローマの世情の説明もあり、とても興味深いものです。
「饗宴」の様子から当時の人々の生活を垣間見ることができるのは、ローマ人にとっての饗宴の意味づけが、まさに社会的なものであったからです。
本書が扱った「トリマルキオの饗宴」は、「解放奴隷」という立場を同じくしたメンバの集まりでした。
トリマルキオのような解放奴隷が台頭していった社会的背景について、著者はこう解説しています。
社会的な名誉が伴わない解放奴隷の財力は「拝金主義」を助長するものとみなされ、しばしば当時の風刺小説の格好の材料になったのです。
「サテュリコン」の作者であるペトロニウスが描いた「饗宴」の中のトリマルキオが成功者としての尊敬というより成金趣味の嘲笑の対象として描かれているのは、そういった当時すなわちローマ帝政繁栄期の世情がもたらした故のようです。