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石橋湛山の65日 (保阪 正康)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 SNSのお薦めで表示されていたので気になった本です。

 石橋湛山はジャーナリスト出身の政治家。
 戦後、第55代内閣総理大臣の任に就きましたが、その在任期間は65日間という短さでした。
 総理大臣としては自らの健康問題による全く想定外の退任でしたが、ジャーナリストとして、経営者として、政治家・主要閣僚として、教育者としての石橋氏の思想や言動には興味深いものがありました。

 特に印象に残ったのは、石橋氏が立正大学学長として学生に対して語った言葉です。

(p258より引用) 諸君に大切なことは次のような理解だと明かすのである。
「何らかの前提や思想感情に支配される事なく、心をやわらかにして、世の中の物を見、事に当るという事であります」
 心をやわらかにしなさい、そうすれば真理を求める熱意は必ず実るであろう、というのが石橋の説いた哲学であった。心をやわらかにするとの意味を盲従と考えてはいけない、やわらかにする事で真の批判精神が生まれるとくり返すのである。

 そして、首相を辞した翌年の卒業生には、こう手向けました。

(p260より引用) 君たちはまだ若いから甘やかされている、と言ったあとに、「(しかし)甘さには、いつでも、夢がともなっている。夢には、未来がある。現代の日本人に欠けているものは、未来をつくりだす夢ではあるまいか」と励ましている。

本書の帯には、「首相の格は任期にあらず!」と大書されています。

(p299より引用) 歴代首相の中で、石橋と対峙する言い伝えは「最長の在任、最小の事績」と言えようか。
 首相というポストには、石橋のように政治家になる前の言論人時代の信念がそのまま刻まれたケースと、政治家になる前の信念が屈折した形で刻まれているケースがある。そこに石橋と岸の違いがあるということになろう。さらに最長の首相がさしたる事績を残さなかったとするならば、そこには首相の格の違いが浮きぼりになるだけではないだろうか。

 石橋氏を継いだ政権、そして最近長期在任を終えて退陣した政権を強く念頭において、保阪氏は本書の「おわりに」でこう記しました。



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