考えよ! ―なぜ日本人はリスクを冒さないのか? (イビチャ・オシム)
日本代表監督も務めたイビチャ・オシム氏が、W杯南アフリカ大会を前にして、日本サッカーとそこに表れる日本人の国民性・精神性について語ったものです。
W杯南アフリカ大会に関する部分は、今となっては結果が判明しているので、オシム氏の予言どおりではない点ももちろんいくつかはあります。イタリアやフランスが予選で敗退することを予想することは、誰にとっても困難だったでしょう。
しかしながら、事実の把握と分析をもとに将来を予測するというロジカルな推論の結果としては、随所に流石というオシム氏の慧眼が光ります。
たとえば、岡田監督が採用した4-5-1の布陣と同じ観点からの指摘の部分です。
まさに今回の日本代表のW杯での結果は、この布陣を選択した賜物だったといえるでしょう。
アーティストタイプの中村俊輔選手をベンチにさげ、4バックの前に泥臭い仕事を献身的にこなす阿部勇樹選手を配したフォーメーションです。阿部選手は見事に与えられた役割を果たしました。
また、「走る」ことを重視するプレースタイルも南アフリカ大会では奏功しました。走りながらプレーする、走りながら素早く考えるのです。
より高みを目指す姿勢ですね。
今回のW杯では、サイドバックの長友選手を筆頭に、遠藤選手が最長距離を走った試合もありました。走ることにより遠藤選手は確実に日本代表の中心選手になりました。
さて、これら具体的なサッカーの話題に加えて、より一般的な日本人論も随所に登場します。
その中でも特に私の関心を惹いたのが、「リスペクトと責任感」との関係を語ったくだりでした。
この客観的分析がポジティブシンキングと合体したときに「平常心」が生まれるとオシム氏は説いています。
とはいえ、オシム氏によると、この「責任転嫁」は単なる「責任感の欠如」ではないというのです。
たとえば、自分のマークする選手だけを追って、それだけやれば「後は知らない」と勝手に考えてしまうメンタリティです。後は知らないという思考は、他に頼るという姿勢と同根のものです。
自分で考え尽くすのが苦手、他に依存しがちなために瞬時に判断するのが苦手・・・、こういう特性は、確かに日本人には見られがちなものだと思いますね。
「日本人は・・・」と安易にひと括りにして議論することは危険なことではありますが、自分のことを振り返る大事な契機になります。今回も私は反省です。
(本稿の再録作業をしている折に、オシム氏の訃報(2022年5月1日)を目にしました。心よりご冥福をお祈りいたします。)