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絶対にゆるまないネジ ― 小さな会社が「世界一」になる方法 (若林 克彦)

 従業員は50名弱の東大阪の中小企業・ハードロック工業
 絶対に緩まないネジ「ハードロックナット」で世界的に注目されている会社です。

 本書は、同社の創業者若林克彦社長が語るとても興味深い体験談です。
 若林社長が説く中小企業における成功の秘訣は、「アイデアからオンリーワン商品をつくること」でした。

(p23より引用) これからの日本の製造業、さらに言えばそれを支える中小企業が、グローバル競争の中で生き残っていくためには、オンリーワン商品の開発こそが不可欠です。
 そして、オンリーワン商品を開発するために必要な資産は、高価な設備や高学歴の技術者じゃあないんですね。・・・
 そんなものは必要じゃありません。それよりも、あなたの頭の中にある“アイデア”こそが、オンリーワン商品を産み出すために必要な資産なんです。

 このアイデアを思いつくのも、顧客のニーズを知ることがスタートになります。

(p25より引用) 大企業のみなさんは、ユーザーがどんなことで困っていて、どんなニーズを抱えているのかを、それは一生懸命つかもうとされています。・・・
 ・・・われわれ中小企業も、ただ取引先から言われたことだけをやっていてはダメとわかります。言われたことだけやっていると、そのうち値引き要求という「価格競争」の世界に堕ちてしまいます。

 このあたりまでは、誰もが気づいていることですが、若林社長は、思いついたアイデアをすぐに形にしてみるのだそうです。メモに残す、図面に起こす、試作品を作る・・・、考えるだけではなく即行動する。この姿勢が決定的に違います。

 本書では、こういった若林社長の悪戦苦闘の軌跡が、さまざまなエピソードとともに語られていきます。
 その中で、ちょっと個人的に興味をもったところをご紹介します。

 1980年代前半、若林社長と営業担当であり実弟の関常務がハードロックナットを電電公社(当時)に売り込んだときの話です。
 電電公社の鉄塔には緩みが許されないボルト・ナットが求められていました。二人の熱心な売り込みが奏功して、電電公社の担当者がハードロック工業の本社工場を訪れることになったときの1シーンです。そのころの工場は貸倉庫を改造した小さなものでした。

(p120より引用) 「関さん、それに若林社長・・・」
 電電公社の方が言われました。
「工場が古くて狭いのはいいんですよ。問題は、生産管理や品質管理がまるでなっていないことです。このままでは発注することはできません」
 やっぱり取引中断か・・・。私も関もがっくりきました。
 さらに電電公社の方が続けます。
「ですから、われわれが指導しますんで、まずはマニュアルを整備して、その通りに品質管理を行ってください」
「えっ・・・教えてくれはるんですか!」
 私も関も驚いて聞き返しました。
「ハードロックナットそのものは素晴らしい技術ですから、われわれもぜひ採用したいんです」

 ちなみに、1980年代前半といえばちょうど私が入社したころです。いかにも当時の電電公社らしいやりとりですね。

 さて、若林社長自らの陣頭指揮による決して諦めない粘り強い営業努力とたゆまぬ商品改良のおかげで、ハードロックナットは「大ヒット商品」となりました。
 そして、さらに様々な困難を乗り越え「ロングセラー商品」へと育っていきました。とりわけ中小企業にとっては「ロングセラー商品」の有無がまさに死活問題となります。幹となる商品を持たないと安定的な経営ができないのです。

 「ロングセラー商品」を産み出すための最も重要なポイントは何か、それは「情熱」だと若林社長は考えています。

(p136より引用) 最も重要なことは、・・・「開発者が情熱を注ぎ込むこと」です。実際・・・新製品というのは、どんなに優れたモノでもマーケットを生き抜くだけの力をもっていません。商品に魂を吹き込んでやるのは、やっぱり人なんです。
 人が自分でつくった商品に惚れ込み、「自分の力で絶対にこの商品を世に出すんだ」という気迫で臨まないと、商品に魂は入りません。

 ハードロック工業では「開発」はもちろん「営業」も自前です。安易に販社に頼りません。地道に諦めず、自分たちの力で挑戦し続けた努力が、輝かしい結果をもたらしたのです。

 最後に、本書を読んで、改めて心せねばと感じたくだりを書き留めておきます。

(p112より引用) 人生においても、嫌なことから逃げずに、前向きに「これは自分を成長させてくれるための試練なんだ」と捉え、「ピンチをチャンスに変える」「逆境をチャンスに変える」という発想が本当に必要なのではないかと、私は心から思います。

 言葉だけでいえば、多くのビジネス書に書かれているフレーズです。
 しかしながら、まさに、その強い信念で、0(ゼロ)からのスタートでオンリーワン商品を開発し、世界的にも賞賛される優良企業をつくりあげた若林社長の言葉だけに、その重みには格別のものがあるのです。



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