あなたのルーツを教えて下さい (安田 菜津紀)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。
フォトジャーナリストの安田菜津紀さんによるルポルタージュです。
「格差」「分断」が際立つ今日、この本が取り上げた人々の姿は、私たちが知らなくてはならないこと、しっかりと目を向けなくてはならないものばかりですね。
今の社会には、こういった “分断や差別” の実態を「知る」方法は数多くあります。それだけに、それらの場に提供され私たちが見聞きできる情報は “玉石混交” です。事実もあれば、フェイクもあります。
ネット社会になって、テレビ・新聞といった旧来型の「マスコミ」はその存在意義が問われていますが、雑誌やネットを舞台にした「フリージャーナリスト」と自ら称する人々も、また多種多様です。さらに、様々な意図をもった人々も情報提供者・情報拡散者として登場しています。
こういった新たな社会環境のもと、“分断や差別” に目を向ける「メディア」の姿勢について、安田さんはこう語っています。
この見方は大切ですね、私も言われるまで、この「視座の転換」「ウェイトの逆転」の重要性に気づきませんでした。なぜこんな “基本的な立ち位置” を意識できなかったのか・・・、情けない限りです。
それでも、差別される側にあるカメルーン出身の星野ルネさんからは、こんな前向きな言葉もありました。
んんん・・・こういった態度は本来、私たちからとるべきなんですね。
そして、本書の最後の章は「なぜ、その命は奪われたのか? ウィシュマさんの生きた軌跡をたどって」。
2021年3月6日、名古屋出入国在留管理局の収容施設で来日していたスリランカ人ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が亡くなりました。
この悲劇的な事件については、書き留めておくべきことはそれこそ山ほどあります。何をどう考えればこんな行動を為そうという気になるのか、いったいどんな神経で人に対してこんな仕打ちができるのか、何を守るために起こったことを隠し葬り去ろうとするのか・・・。名古屋入管は決して許すことのできない “異界” でした。
これに類する実態は、名古屋入管だけにとどまらず、今の社会機構のなかの様々な場面に根強く残っています。
根本は、人ひとりひとりの「心」「意識」の問題ですが、そこに踏み込まないまでも、「社会規範(制度・法律等)」の変更で少しでも改善することはできるはずです。
ただ、その法改正も「改正すべき」「改正しよう」という “人間の意思” が起動しなくては実現しない、結局は詰まるところ「意識」の問題に立ち戻ってしまう、このジレンマが悩ましいのです。