日本企業にいま大切なこと (野中郁次郎・遠藤功)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
以前参加していたセミナーの事務局からお送りいただいた本です。
「知識創造理論」の提唱者野中郁次郎氏と「見える化」による企業の改善活動の推進者遠藤功氏による共著です。内容は、東日本大震災で大きなダメージを受けた日本企業に対する、著者たちからの再生に向けたエールでもあります。
本書における野中氏の主張を通底しているコンセプトは、件の「フロネシス(賢慮)」。アリストテレスの思想に遡る「共通善」を価値基準とした「実践知」です。その基本コンセプトを踏まえて、遠藤氏は、得意の現場目線での自説を展開しています。
たとえば、「東日本大震災を経た日本企業に必要なもの」について。
遠藤氏は、それは自社利益だけでなく社会全体の復興を目指す強い意欲だと主張しています。そして、改めて「稼ぐ」ことが、この社会全体の復興という「共通善」実現の源となると説いています。
この「エコノミック・アニマル」への回帰は、「理論」より「現場」を重視した日本的経営手法の再評価でもあります。
まさに今、見直されるべき日本的経営手法のひとつは、「イノベーション」を生み出すスタイルです。このあたりは野中氏の得意分野、こんなふうに語っています。
イノベーションは、形式知にもとづく論理的な演繹法からは生まれない、経験から得た深く多彩な暗黙知とその関係性を洞察した帰納法から生まれるのだというのが、野中氏の主張です。
この日本的経営手法の成功例として常に挙げられるのが「トヨタ」でした。しかし、近年、このトヨタの愚直なまでの品質管理にも綻びが見えてきました。
こういう「組織としての感度の低下」は、グローバル化に代表される経営環境の質的な変化がひとつの外的要因といえるでしょう。
この点に関しては、グローバル化との掛け声のもと事業拡大という「体格」の追求にシフトし過ぎて、日本独自の「体質」を犠牲にした結果だというのが遠藤氏の論です。
さて、本書を読み通してみて、こういったメインテーマのコンテクストの外に、ちょっと気になるコメントがいくつかありました。
たとえば、日本企業が重視する「コンセンサス」についての遠藤氏の評価。
もうひとつ、「現場力」について。
いずれも、まったくそのとおり、大いに首肯できる内容ですね。
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