
マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版] (P.F.ドラッカー)
マネジメントの使命
ドラッカー氏の「マネジメント」の復習です。
まず、本書の冒頭でドラッカー氏は「企業とは何か」を問い、「企業≠営利組織」と述べています。
(p15より引用) 企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。・・・その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。
顧客のみが市場を創造します。そこでドラッカー氏はこう続けます。
(p16より引用) したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。
マーケティングの目標を考えるにあたって、ドラッカー氏は先立つべき二つの意思決定があると言います。「集中の目標」と「市場地位の目標」です。
そのうち「市場地位の目標」に関するドラッカーの指摘は重要です。
(p31より引用) 市場において目指すべき地位は、最大ではなく最適である。
ドラッカー氏は、独占による市場の停滞よりも、適度な競争状態による市場の拡大・活性化を重視しているのです。
このあたりの考え方は、本書の最終章「マネジメントの戦略」でとりあげられている「必要な成長とは何か」との命題の議論でも示されています。
(p261より引用) マネジメントに携わるものは、第一に、必要とされる成長の最小点について検討しておく必要がある。・・・
・・・量そのものは成長とは関係ない。成果の面で成長して、初めて成長といえる。・・・
したがって第二に、成長の最適点について検討しておく必要がある。それ以上成長しようとすると、資源の生産性が犠牲になる点はどこか。収益性を高めようとすると、リスクが急激に増大する点はどこか。成長の最高点ではなく最適点こそ成長の上限としなければならない。成長は最適点以下でなければならない。
このドラッカー氏のアドバイスに従うのは非常に難しいですね。事業を推進する立場に就くと、「黒字であれば(赤字でさえなければ)、生産性が落ち始めていてもその施策はgo」という判断をしてしまいがちです。
さて、最後に、ドラッカー氏の最重要テーゼのひとつ「イノベーション」に関する主張を記しておきます。
(p270より引用) 重要なことは、変化が例外でなく規範であり、脅威でなく機会であるという真に革新的な風土の醸成として、問題を定義することである。イノベーションとは姿勢であり行動である。・・・
変化への抵抗の底にあるものは無知である。未知への不安である。しかし、変化は機会と見なすべきものである。変化を機会として捉えたとき、初めて不安は消える。
「変化」に対するポジティヴ・シンキングです。
マネジャー
ドラッカー氏によるマネジャーの定義は「組織の成果に責任を持つ者」です。
そして、ドラッカー氏は「マネジャーの役割」を以下のように説明しています。
(p128より引用) マネジャーには、二つの役割がある。
①第一の役割は、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。・・・
マネジャーはマネジメントの一員として、事業のマネジメント、人と仕事のマネジメント、社会的責任の遂行という三つの役割も果たさなければならない。・・・あらゆる決定と行動は、三つの役割すべてにとって適切でなければならない。・・・
②第二の役割は、そのあらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものとを調和させていくことである。・・・
今日のために明日犠牲になるものについて、あるいは明日のために今日犠牲になるものについて計算する必要がある。それらの犠牲を最小にとどめなければならない。
さらに続けて、その役割を踏まえたマネジャーが取り組むべき具体的な仕事も明示しています。
(p129より引用) あらゆるマネジャーに共通の仕事は五つである。①目標を設定する。②組織する。③動機づけとコミュニケーションを図る。④評価測定する。⑤人材を開発する。
そしてこれらの役割を果たすべきマネジャーに必要な資質は「真摯さ」だと断言しています。
(p148より引用) いかに知識があり、聡明であって上手に仕事をこなしても、真摯さに欠けていては組織を破壊する。組織にとってもっとも重要な資源である人間を破壊する。組織の精神を損ない、業績を低下させる。
このあたりの指摘は、いかにもドラッカー氏らしい語り口ですね。
さてもうひとつ、「組織の精神」の章でのドラッカー氏の指摘も重要です。まず、組織の目的としてこう切り出します。
(p145より引用) 組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。
凡人からなる組織は「事なかれ主義の誘惑」にさらされます。この点についてのドラッカー氏のアドバイスです。
(p145より引用) 成果とは百発百中のことではない。・・・成果とは長期のものである。すなわち、まちがいや失敗をしない者を信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手をつけない者である。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。・・・人は、優れているほど多くのまちがいをおかす。優れているほど新しいことを試みる。
この点はドラッカー氏に限らず、多くの先達によって指摘されているところです。
が、これほど言われ続けているということは、現実はなかなかこのとおりになっていないという証左でしょう。私も折にふれて心しなくてはなりません。
マネジメントの方法
マネジメントは通常日本語では「管理」と訳されますが、その「管理」についてドラッカー氏が語った章から、私が関心をもったフレーズを書き記しておきます。
まずは、「管理手段」の特性についてです。
(p165より引用) 組織における管理手段には三つの特性がある。
①管理手段は純客観的でも純中立的でもありえない。・・・
この第一の特性を踏まえてドラッカー氏はこう指摘しています。
(p166より引用) したがって管理に関わる根本の問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。
「目的(対象)」の明確化が最も重要で、「いかに(手段)」はそれに従属するとの考えです。
さらに、あと二つの特性はこれらです。
(p166より引用) ②管理手段は成果に焦点を合わせなければならない。・・・
③管理手段は、測定可能な事象のみならず、測定不能な事象に対しても適用しなければならない。・・・
測定できるものは、すでに発生した事実、過去のものである。未来についての事実はない。しかも測定できるものは、ほとんどが外部ではなく内部の事象である。・・・
そのうえ測定と定量化に成功するほど、それら定量化したものに注目してしまう。したがって、よく管理されていると見えれば見えるほど、それだけ管理していない危険がある。
最近、「見える化」「可視化」の重要性がいわれています。
もちろんその重要性を否定するものではありませんが、そもそも「何を」対象とするのかが重要である、定量化(可視化)外のところにも管理が必要な事象があるとのドラッカー氏の指摘は、なるほどと思わせるところであり、改めて心しなくてはならないと感じました。
もうひとつ、「経営科学」をテーマにしたドラッカー氏の議論です。
ドラッカー氏は「経営科学」はマネジャーにとって有効なツールであるにも関わらず、その活用方法に問題があると考えています。
(p175より引用) 経営科学がなぜまちがって使われているかを解くもう一つの鍵は、リスクに対する態度にある。経営科学は、・・・最終目標としてリスクをなくすことや最小にすることに力を入れている。・・・だがそのような試みは、最大のリスクすなわち硬直化のリスクを冒しているといわざるをえない。
経営科学の主たる目的は、正しい種類のリスクを冒せるようにすることでなければならない。マネジメントのために、いかなるリスクがあり、それらのリスクを冒したとき何が起こりうるかを明らかにしなければならない。
この指摘の根本にある「リスクに対する考え方」、すなわち、リスクは避けるものではなく取るものだという姿勢は、まさにドラッカー氏のマネジメント思想の根本に流れているものですね。