(注:本稿は2011年に初投稿したものの再録です)
平凡・明星
もう40年近く前になりますが、私が中学生のころは、月刊の「平凡」や「明星」の付録についていた歌本が大流行していました。放課後には誰かのギターを囲んで、という風景です。
本書は、私と同じ世代の方にはとても懐かしくまた面白く感じられるのではないでしょうか。「歌謡曲」を媒体にした世相史という位置づけも可能ですが、素直に「歌謡曲」の足跡をたどる目録・年表として眺めても十分充実した内容です。
さて、そういう話題満載の本書から、特に印象に残ったくだりをいくつか書き留めておきます。
まずは、「第1章 和製ポップスへの道」から。
もちろんここには「ビートルズ」が厳然と際立ったエポックメーカーとして存在しています。
つぎは、「女の子なんだもん」を歌った初期のアイドル派歌手「麻丘めぐみ」さんの評価について。
麻丘さんは私より少し年上になりますが、もちろんキラキラと輝いていたアイドル時代も知っています。さらには、今年(2011年)春、会社のイベントでお呼びしたのでとても親近感を感じているのですが、こういう位置づけの評価は新鮮です。
そして、当然のごとく登場する吉田拓郎と井上陽水。
この二人にかぐや姫が加わると、まさに私の中学時代の音楽の原点の登場ということになります。最初に買ったアルバムも拓郎でした。
(注:吉田拓郎さんも今年(2022年)、音楽活動に終止符を打つとのことです。)
歌謡曲社会学
本書では、「歌謡曲」という対象を多面的に考察しています。
歌唱・作詞・作曲・編曲・演奏といったパーツを多様な観点からテクニカルに分析したところもありますし、ミキサー・エコライザー・シンセサイザー等、音づくりに関する機器の技術面からの解説も興味深いものです。
ちょっと長い引用になりますが、こんな感じです。
録音技術の進歩をトリガーに、奥村チヨとCHARAとを結びつける視点は著者ならではでしょう。
多面的な考察のもう一つの視点が「世相」という切り口です。
たとえば、1969年、佐良直美の「いいじゃないの幸せならば」。
岩谷時子作詞、いずみたく作曲の60年代最後(1969年)のレコード大賞受賞曲です。
もうひとつ、だいぶ時代は下って、1982年、中森明菜の「少女A」。
この曲が流行ったのも、もう30年(注:初投稿は2011年)も前のことなのですね。
歌謡曲は、大衆文化の代表的な具現形態ですから、その時代を象徴するタイムカプセルとしてひとりひとりの記憶の中に残り続けています。
想い出の歌を耳にするとタイムカプセルが開き、その当時の懐かしいシーンが、また気分が、活き活きとあるいは薄いベールを被って甦るのです。