
恐竜最後の日: 小惑星衝突は地球をどのように変えたのか (ライリー・ブラック)
日本経済新聞の書籍紹介の欄でサイエンスライターの竹内薫さんが取り上げていました。
ちょっと前に、いつも利用している図書館の新着本の棚で目には入っていたので、さっそく改めて借りてきました。
恐竜絶滅の原因は最近では “隕石衝突説” が定説に近い位置にあるようですが、本書では、隕石衝突後 “生物が絶滅に至るプロセス” と、その直後からの “再生のプロセス”を具体的に描き出して解説しています。
興味深い内容が満載だったのですが、その中でも特に印象に残ったところをいくつか覚えとして書き留めておきます。
まずは、「隕石衝突の生命史上のインパクト」について。
(p14より引用) 地球の生命史は、「偶然性」というたったひとつの事象によって、不可逆的な変化を経験した。もし小惑星の衝突が起こらなかったり、もっと遅かったりしていたなら、あるいは、もし衝突したのが別の場所だったならば、衝突後の数百万年の間の出来事は、まったく別のシナリオに沿って展開していたことだろう。・・・ただそうなると、このように時間や時の流れに思いをめぐらせるような種が生まれることもなかったはずだ。この日は恐竜たちだけでなく、私たち人類にとっても、きわめて重要な一日なのである。
そうですね、このとんでもない稀有な確率で起こった一瞬の出来事が地球のすべての生命の在り様をここまで変えてしまったという事実は、「恐竜の絶滅」という事象にとどまらないメタ認知の重要性を改めて強く意識させますし、“今、この瞬間” の大切さも再認識させますね。
そして、もう一ヵ所、隕石衝突による大量絶滅から1000年ほど経て、「新たな再生が始まりつつある生物界の姿」に言及したくだりです。
(p156より引用) ある種が存在すれば、そこには相互作用や役割が生じるため、それがほかの種の誕生や繁栄の助けになることも多い。多様性から多様性が生まれるのであって、生態系の空きは必ずしも必要ではないのだ。大量絶滅によって現状が大きく変わり、チャンスが生まれることもたしかにあるが、じつは、進化の勢いを後押しするのは生物同士の相互作用なのである。空いているニッチに生き物たちが否応なくはめ込まれて、過去と同じ関係性が何度も築かれるというような不自然な環境はありえない。・・・いまここで織り成されているのは、まったく新しい世界なのである。
多様性を掛け合わせた「新たな進化のプロセス」が進み始めました。
著者は、さらに、こうコメントしています。
(p157より引用) 自然選択とは、常に変化を起こす原動力であるが、それが機能するためには多様性が必要だ。
さて、とても刺激に富んだ内容の本書ですが、その構成で最も特徴的なところとしてボリュームのある「付録」の記述が挙げられるでしょう。
本編とは別に、「科学的背景について」と題した補論を追記し「本編の各章ごとに補足説明を詳細に加える」といった作りになっています。
本編の記述は、テーマの性質上、学問的に十分な裏付けが担保されている事実に加え、専門家の間でも議論が分かれている仮説や著者の知識をベースに想像力を駆使して記述している部分が混在しています。
これは、「科学という骨格を物語で肉づけしたもの」ともいうべき著者による読者の読みやすさへの配慮でもあるのですが、やはり学術的な観点では曖昧さを容認したものとも言わざるを得ません。
その点への対策として、「付録」において、本編の記述の「根拠ごとの区分」を明確にしたというのです。珍しい構成ですが、これは、著者の “科学的記述に対する良心の現れ” として意義のある姿勢だと思います。
そういった目新しい工夫も併せて、興味深い内容が満載の刺激に溢れる良書でした。