文明の作法 ― ことわざ心景 (京極 純一)
政治学者京極純一氏の「諺」を材料にしたエッセイです。
初版は1970年、50年ほど前の本、たまたま図書館で借りている本を読み終わったので本棚を探っていたら出てきました。私が持っていたのは1989年の版なので、教養課程での京極先生の講義(日本政治思想史?)に触発されて、後になって買い求めたものだったのでしょう。(全く記憶にはありませんが・・・)
今読むと、丸眼鏡の先生の風貌が思い出されますし、当時の世相を映した政治学者らしからぬ洒脱な筆致もなかなかに面白く感じられます。
それでは、収められているエッセイから、いくつか興味を惹いたくだりをご紹介します。
まずは、「医者寒からず儒者寒し」。
事業仕分けでもテーマになった科学技術における「基礎研究」の意義についてのフレーズです。
もうひとつ、「水母の風向かい」という諺を材料にした章です。
これには、「欲と正論、二人三脚」というサブタイトルがついています。
このあたり、政治意識論が専門の著者らしい書きぶりだと思います。
最後にご紹介するのは、「好きに赤烏帽子」。
集団迎合的な「流行」と我が道を行く「酔狂」とを対比させて、現代社会における「酔狂」の積極的な位置づけについて語っています。
「流行」は、他者との関係性の中で維持されるものです。そこに「他者への依存性」が抜き差しならないものとして登場するのです。
他方、「酔狂」は、自己の自由な心のなかに位置しています。
「酔狂」は、他者との関係性社会における自己の発露の一形態です。そして、この「酔狂」は、現代社会において、新たなものを生み出す種子となるものだと語っています。
京極先生が本書を書かれたのは40歳代半ばです。比べるのも畏れ多いのですが、今の私より遥かに若年の筆とは到底思えません。