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あっぱれ! 日本の新発明 世界を変えるイノベーション (ブルーバックス探検隊・産業技術総合研究所)

(注:本稿は、2024年に初投稿したものの再録です。)

 日本経済新聞のサイトに紹介記事があったので、気になって手に取ってみました。

 ここ数十年の日本産業界の衰退ぶりは顕著ですが、それでも地道な研究開発の営みは続けられています。
 本書では、日本の代表的な公的研究機関・産業技術総合研究所における多彩な成果が紹介されていますが、その中から私の興味を惹いたものを1、2、書き留めておきます。

 マルチマテリアル研究部門セラミック組織制御グルー プ 研究グループ長の福島学さんが取り組んでいる「熱伝導率の低いレンガ」の製造。その過程で「不規則な孔」の発生を抑える技術が必要になりました。
 その解決策として浮かんだのが、北海道センターで行われていた「不凍タンパク質」の研究でした。

(p69より引用) その担当をしている研究者に福島さんが連絡を取ると、こう言われて歓迎されたという。
 「不凍タンパク質が、ほかの想像もつかない分野で使える日がいつか来ると思っていました」
 生物分野で開発した技術が、セラミックスという素材分野で活かされる――。まさに研究者冥利 に尽きる瞬間だろう。

 研究開発の成果が花開く道のひとつは、こういった “偶発的な発想の出逢い” かもしれません。

(p72より引用) 「技術はどこかで廃れることなく、誰かが別の用途で蘇らせてくれるものなんです」

 そうですね、私もそう思いますし、そうであって欲しいですね。

 そして、研究開発の醍醐味を研究者自身が語っているくだり。
 「音楽情報処理」をテーマに研究を続けている情報技術研究部門主席研究員後藤真孝さんの言葉です。

(p191より引用) 「基礎技術をつくっただけでは、一般の人々に直接使ってもらうことはできません。そこで、技術で未来を切り拓くために、応用技術としてインタフェースも開発したうえで技術の使われかたを提案したり、サービスとして一般公開することで技術を直接利用可能にしたりする研究開発に挑戦しています。そうすることで、われわれの技術がもつ幅広い可能性を、産業界も含めたさまざまな方々と一緒に考えていくことが可能になるからです」

 この研究開発から実用化に至るプロセスにおいて直面する障害は、研究者にとって、遥か以前から “死の谷” “キャズム” などの名前で呼ばれていた究極の課題ですね。

 本書を読み通して、この課題を克服するひとつのヒントが、「産業技術総合研究所」という “基礎研究の総本山” の存在にあるように思いました。
 研究テーマ同士、研究者同士の “セレンディピティ(Serendipity)” が実用化へのブレイクスルーになることを大いに期待したいものです。


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