(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
著者の鳥居龍蔵氏は明治期の考古学者・民族学者です。
小学校を中退し、その後独学で必要な語学や専門の人類学を学んだとのこと、そういった厳しい環境下においても国際的な業績をあげた在野の研究者の自伝です。
鳥居氏の最初の強烈なエピソードは、尋常小学校を止め独習を始めるときです。そのあたり、鳥居氏はこう述懐しています。
10歳に満たない年齢でこういう決断を下し、しかも独学を完遂するというのは、今の時代に照らし合わせると驚愕ですね。
確かにこのころは、江戸期の寺子屋の流れから幼いころからの教育は現在よりずっと厳しく進歩的でした。鳥居氏も6・7歳で「四書五経」を素読し、司馬遷の「史記」も学んでいるのです。
これら多彩な読書は鳥居氏の教養に幅と深みをもたらしましたが、その中で、氏の自主自立的姿勢に大きな影響を与えた著作はサミュエル・スマイルズの「自助論」でした。
「自助論」に感銘を受けた人はそれこそ数多いると思いますが、鳥居氏ほど、その主旨を実践した人は極めて稀でしょう。
自らの学びを貫徹していく鳥居氏は、1895年、初めての海外フィールドワークとして遼東半島の調査を行いました。そして、その後、台湾・北千島等の調査を経て、1902年西南支那の調査に赴きました。
その時の経験が氏の研究方法の幅を広げることとなりました。
このように鳥居氏は、独立独歩の精神で地道な学究活動に勤しみ、国際的な業績をあげていきましたが、日本国内においては必ずしもその道は光の当たるものばかりではありませんでした。
朝鮮総督府からの依頼による朝鮮全土に及ぶ7回の調査も後味のいいものではなかったようです。
このあたりにも、学会の旧弊に苛立つ鳥居氏の姿を見ることができます。
そして、本書の「結語」において、改めて鳥居氏の自主独往の生き方が、自らの言葉で語られています。
自分自身の生涯に対する見事なまでの自信の発露であり、家族に対する深い感謝の念の表明の言葉です。
今の時代には決して見ることができないとても魅力的な人物ですね。