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新訳 ジュリアス・シーザー (シェイクスピア・河合 祥一郎 (翻訳))

(注:本稿は、2023年に初投稿したものの再録です。)

 いつも利用している図書館の新着本リストで目についたので手に取ってみました。

 シェイクスピアの翻訳ものを読むのは、かなり久しぶりですね。
 本編の新訳だけでなく、詳しい注釈やシェイクスピアが創作するのに参考にしたと思われる文献(プルタルコスの「英雄伝(対比列伝)」)の抄訳も載せられている1冊です。

 そういった多彩な内容の本書ですが、その中から、私の印象に残ったくだりをいくつか覚えとして書き留めておきます。

 まずは、シーザー暗殺前夜のブルータス邸共謀者に語ったブルータスの言葉の一部です。

(p53より引用) ブルータス
一旦口にした言葉を決してたがえることのない
ローマ人の密約に?どんな誓いが要るというのだ?
正直と正直とが互いに、命に代えても
やってのけようと約束したことのほかに?

誓いなど、神官、卑怯者、策士、
耄碌した老いぼれ、不正に甘んじる腰抜けどもに
任せておけ。悪事を働こうというときに限って、
そういう怪しげな連中が誓いを立てるのだ。
だが、我らが大義や行動に誓いが必要などと考えて、
我らがしようとすることの正しさ、
我らが精神の不屈の精神を穢してはならぬ。

 気高く人望のあったブルータスですが、帰還したシーザーの専制を予感し、ローマ市民のために彼の暗殺を決意します。
 しかしながら、シーザー暗殺が成ったのち、アントニーの讒言とも言えるような演説でローマ市民は翻意し、ブルータスの立場は暗転してしまうのです。

(p107より引用) アントニー
ブルータスは、周知のとおり、シーザーには天使だったのだから。
ああ神々よ、シーザーがどれほど彼を愛していたことか。
これこそまさに、最も人の道に悖る一撃だ。
気高いシーザーは、己を刺さんとするブルータスを見て、
謀叛人の腕より遙かに強烈な忘恩に、完膚なきまで
打ちのめされ、その強靭な心も破裂したのだ。
・・・
ああ、すべてが打ち倒されたのだ、諸君!
私も君たちも、我々全員が倒されたのだ。
血塗れの裏切りが、我らに勝ち誇ったのだ。

 シェイクスピアの戯曲の真骨頂と言うべき道化の駄洒落や皮肉な語り口は、本作品ではほとんど目にしません。
 そのあたり、少々物足りなさを感じますが、その分、上演された舞台は、“壮大な叙事詩的テイスト” だったような気がしますね。



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