海賊とよばれた男 上・下 (百田 尚樹)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
評判になった本なので手に取ってみました。
主人公は、石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造。石油元売会社出光興産の創業者である出光佐三氏がモデルとのことです。
物語は、太平洋戦争敗戦の瞬間から始まります。
戦前から石油販売を生業としていた国岡商店は当然のように倒産の危機に陥ります。どん底からの再生、その苦しい中、店主の国岡鐵造はただひとりとして馘首しないとの信念を持っていました。
戦争で灰燼に帰した店員名簿が復されたときの国岡氏を、著者はこう描いています。
人を大切にするに人には、人はついてくるのです。
また、こんなシーンもありました。
国岡鐵造が、石油メジャーの販売会社「スタンバック」の有力者ダニエル・コックと面会した時のやりとりです。鐵造とコックは、かつて中国の地で商売を相競った間柄でした。
敗戦後、占領者としてのアメリカ人の中に、是々非々を以って事に当たり、人間としての姿勢を尊重して判断する人物がいたことは、とても嬉しく清々しい思いがします。
本書の魅力のひとつは、こういった国岡鐵造に対する良き理解者を描いたシーンにあります。
GHQの統治から脱却し、国岡商店が世界に打って出ようと悪戦苦闘しているとき、バンク・オブ・アメリカのタールバーグ東京支店長の台詞です。彼は、2億円の資本金の国岡商店に対し、400万ドルという桁外れの額の融資を決断しました。
国岡商店の存続がかかった重要な局面では、国岡氏の人柄・信念や国岡商店の経営姿勢、従業員の奮闘努力を高く評価し手を差し伸べる理解者が決まって現れました。
本書は、国岡氏のドラマチックな生き様を辿った物語ですが、私はむしろ、国岡氏を評価し信じて、自らの立場で英断を下したこれら多くの関係者の心情の方に目が移ります。
人から信じられる人間になることはとても崇高なことですが、自らの責任において人を信じる切る姿もそれに負けず劣らず素晴らしいものだと思うのです。
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