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コンサルタントの「質問力」 (野口 吉昭)

語彙と語感

 最近とみに目に付く「○○力」と銘打った新書です。

 著者の野口吉昭さんは、まず冒頭「はじめに」で、「いい『質問』の効用」についてこう切り出します。

(p3より引用) いい質問は、いい空気を作るし、いいコミュニケーションを作る。いい質問は、相手を元気づけるし、楽しくさせる。いい質問は、相手を動かし、成果を出すプロセスを作る。
 いわばいい質問とは、「動機づけ」の結節点であり、エネルギーの素なのである。

 本書では、コンサルタントである著者が、コンサルタントに不可欠な能力としての「質問力」について、著者自身の経験を材料に具体的に解説していきます。

(p21より引用) 質問力を磨くということは、整理し、体系化し、本質を探究し、解を見つけることを意味する。それはこの商品開発における、「ニーズ(顕在化している要求)を整理し、求められる本質のウォンツ(潜在的な欲求)をシーズ(知恵や技術)で創出すること」と非常によく似ているのだ。

 著者は、コンサルタントに必要な質問力として、「仮説力」「本質力」「シナリオ力」の3つを挙げています。
 その中の「本質力」についての説明です。

(p169より引用) 本質力は、「見える化」「論理的」「絞り込む」ことを通し、語彙力、語感力によって磨き上げられ、最終的にはこの文脈を凝縮する力に帰結する。「ワンメッセージ化」の力である。

 この説明で耳新しかったのは、「語彙力」「語感力」というフレーズです。本質をより具体的に把握するためには、たとえばソムリエがワインの評価を語るときのような豊富なイメージ力・表現力が必要だというのです。そして、それを支えるのが「語彙力」であり「語感力」であるわけです。

 私も、どちらかというと鈍感な方で、語彙力にも乏しいので型にはまった表現しかできません。大いに反省するところです。
 ちなみに、本書で紹介されている「語彙数推定テスト」をやってみましたが、年齢相応といった結果でした。

うなづき

 本書では、「質問力」を向上させるための具体的な方法を数多く紹介しています。その点、How To本としては分りやすいものです。

 たとえば「聞く態度」の重要性を説明している章では、「うなづきと短い質問」を具体的なHow Toとしてあげています。

(p29より引用) うなづきと短い質問というと、なんだかとても簡単なことのように思えるが、そうではない。相手の話をきちんと聞いていないと、適切なタイミングでうなずくことはできない。もちろん的を射た質問もできない。

 また、質問力を高める具体的なツールの例としては「蝶ネクタイチャート」が特徴的です。
 ボトムアップ型のロジックツリーで収集した情報から課題解決のための目標をつくり、ブレイクダウン型のロジックツリーでアクションプランに落としていく、こういった一連のプロセスをサポートするために「蝶ネクタイチャート」が役立つと説明しています。

(p84より引用) コンサルタントの仕事とは、バラバラだった課題を一つにまとめることで目標を明確にし、今度はその目標を実現するための展開を図る。収集して拡大させる作業だと言える。だから蝶ネクタイチャートが使えるのだ。

 コンサルタントの質問の究極の目的は、コンサルタント自身の理解のためではありません。よい質問によって、クライアントの気づきを促しクライアント自らの改善のアクションを呼び起こすことにあります。

 最後に、著者が「質問力」のひとつの要素としている「仮説思考」について、その落とし穴について触れているフレーズをご紹介します。

(p98より引用) 仮説を立てながら、仮説を捨てる、これができる人は非常に少ない。一度貼ったレッテルは、なかなか剥がせないのだ。

 これに続く400mハードルの為末大選手のことばは、(よく言われていることではありますが、)印象的です。

(p99より引用) 固定観念に縛られることの怖さは、陸上の世界でも言えることです。・・・本来は柔軟な思考の持ち主でも、少しでも情報を軽視したり、先入観に囚われたり、慢心した瞬間に、頭の堅い人物に変身します。正しい方法を探り出すことは大切ですが『これで間違いない』と思ったときから、敗北は始まっている。常に現実を見据え、考え続ける努力をしている人だけが、柔軟な思考を持ち続けられる・・・

 一流アスリートが感得した“日々の努力の本質”です。


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