フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略 (クリス・アンダーソン)
ペニー・ギャップ
以前から、「無料」で利便を享受できるサービスをフックに消費者を取り込み、別の仕掛けで利益を得るというモデルは存在していました。多くの場合は、サービスを継続利用する過程で、無料化のコストは結果的には回収されるような仕組みでした。
近年、インターネットの世界になって、さらに新たな「無料モデル」が登場してきています。これら新たに登場したモデルは、そもそもの提供コスト自体が限りなく「0」であることを活用している点で、従来モデルとは異なったものです。
本書では、様々な「無料化モデル」を紹介しながら、ビジネスにおける「無料(フリー)」の活用に示唆を与えようとしています。
まずは、「無料」の影響力の強さについての解説です。ここでは「ペニー・ギャップ」というコンセプトが紹介されています。
この力が、ジョージ・ワシントン大のサボ氏のいう「心理的取引コスト」です。
このコストの影響により、多くの消費者(利用者)に少額の対価を払わせることで可能となる「マイクロペイメント」というビジネスモデルが成立し得なくなると、サボ氏は主張しています。
サボ氏が推奨するのは「フリー(無料)」モデルです。
通常の需給曲線を価格「低」の方向に延長した場合、「いくら低くても有料」と「無料(フリー)」との間には、非連続のギャップがあります。質的な相違があるのです。
消費者側の購買行動を惹起させる心理において「安価」と「無料」の間に大きな差があることは、私たちの生活実感としては非常によく理解できます。
サービス提供者側の立場からの最大かつ解決困難な問題は、あまりにも当然ですが、「無料モデル」でどう利益を得るかです。
フリーによる価値の転化
デジタル化により価格破壊が起き、さらに無料(フリー)のサービスが登場したことによって縮小・退出していったものはたくさんあります。
その代表例が「百科事典」です。1セット1,000ドルを越す百科事典を全世界で大量に販売していたブリタニカは、1993年マイクロソフトがエンカルタという電子百科事典を99ドルで売り出したことにより大きな打撃を受けました。
そして、現在は、無料のウィキぺディアが現れ、マイクロソフトはエンカルタの提供を打ち切りました。
「無料」にすることにより、より多数の人々が便益を享受できる、そして、その無料を実現するための「収入」は別の仕組みで確保するというモデルです。
競合が無料化を武器に参入してきた市場のみを自社のビジネスドメインにしていた企業にとっては壊滅的です。
さて、「フリー」のビジネスモデルでの難問は、この収入(あるいはお金に代わる何らかのメリット)の確保方法ですが、この点について著者は4つの類型に整理しています。
これらの中で、著者が、特に重要なコンセプトとして紹介しているのが「フリーミアム」。
フリーミアムとは、(繰り返しになりますが、)「フリー」(無料)と「プレミアム」(高額の有料商品/サービス)を組み合わせた造語で、無料のサービスや商品で多くのユーザーを集め、さらに高度な機能や特別な仕様などを有料サービスとすることにより、両者のバランスの中で利益を確保するビジネスモデルをいいます。別の言い方をすると「少数の有料利用者が多くの無料利用者を支えるモデル」です。
このモデルの原始的なスタイルは、従来から無料サンプルの配布による集客といった形で存在していたものです。が、デジタルの世界になって、多くのユーザにサービスを提供するための限界費用が飛躍的に低下したことから、さまざまな活用方法が登場したのです。
さて、本書を通読しての感想ですが、まず、デジタルの世界ではその限界コストの極小化による「フリー(無料)」への流れを押し止めることはできないとの主張は理解できます。
問題は、その次です。
そういった「フリー(無料)」といった大きな潮流のなかで、いかにして「新たなマネタイズモデル」を構築できるか、「選択と集中」なのか「多角化」なのか、どこに「儲ける」仕掛けを作り込むのか・・・、これは、まさに知恵の出しどころですね。