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ウダイプル・タイムズ【インド#13】

ウダイプルの夜はジュンさんとの楽しい時間だったが、昼間は何をしていたかというと、昼は昼で1人の時間が充実していた。
シティパレス観光もしたり、小さな町を歩き回るだけでも楽しかった。
そんなちょっとしたウダイプルでの日々の時間を「少し」。

(※「少し」って書いたのに、⑤の絵描き教室が長文になりすぎました。ご了承ください。)


①ちゃんと白いウダイプルの宿編

ウダイプルの宿は、1階にオーナーのニーラジとお母さんが住んでいて、その上の階に3室のみの個室の部屋がある形式でホームステイのような宿だった。ここが、これまでのインド旅で泊まってきた宿の中で、一番白くて、天井も床もピカピカだった。
インドの宿と言えば、大体が、天井にある大きくて爆音のする落ちてきそうなくらいボロボロのファンと汚い天井を見て眠るものなのだが、ここは全く違った。
白い天井に白いファン。白ってこんなに清潔感があるんだなあと感心してしまった。
天井の縁に施された模様が可愛くて、眠る前も起きてからもずっと見ていたかった景色である。
宿のオーナーのニーラジは無口で全く愛想がないが、口下手なだけの不器用で真面目な男性だった。
インドの宿のオーナーという存在は、常に従業員に偉そうにしていて、口だけしか働いていない人が多く、諸々の雑用は若い衆に任せている形が多い。
例えば「お湯が出ないんだけど」とオーナーに私が言えば、「分かった!すぐ使えるようにしてあげるよ。5分待って」とオーナーは笑顔で私に答えるが、お湯が出るようにボイラーをいじるのはオーナーに命令された下っ端の従業員である。
従業員は大体いつも夜はその辺の床に寝ているし、30分以上待たないとお湯は出ない。
それがいつも見てきたインドの宿のパターンだが、ここは違った。
ここにはニーラジしかいない。
ニーラジは朝からずっと床を磨いている。
階段には掃除道具が整列している。
朝ごはんを頼めば、OKという意味で黙って首を横に振りニーラジが作る。
テレビが映らないと言えばニーラジが来て黙って配線を直してくれる。
チャイだけはニーラジのお母さんが作るけど、それ以外は全てニーラジが黙々と仕事をしている。
一日中、黙ってどこかを磨いたり部屋を掃除している。
ドアや天井の縁に施された模様もきっとニーラジが描いたのだろうと思う。
英語がほとんど話せないせいもあり、びっくりするくらい本当に何も喋らないが、グンナイとグンモーニンは照れながら毎日言ってくれた。
ホワイトシティの白を守る男、ニーラジ。
インドの中で、最も信用できるオーナーだと思った。

この白い天井を見て眠れるのは幸せだった。
インドでこんなに輝く床を見たことない。
毎晩ここから打ち上げ花火が見れた。
朝になるといろいろと細かいところが見えてきて、それなりにインドだが、それでも綺麗である。
ニーラジの仕事道具。
屋上で洗濯も干せたし最高の宿。
このイラスト、テープみたいだけど全部ちゃんと手描き。
ニーラジお手製の朝食パラタとライタ。カオシンと向かい合って食べる。

ウダイプル最終日の夜だけは別のホテルに移った。
こちらも清潔なホテルで、大きなテレビでNetflixもAmazonプライムも見れて良かったが、お湯が出なかったのと、バスルームから少し変なにおいがするのが残念だった。

とにかく広くて清潔。
広くて綺麗なバスルーム。だけどちょっとくさいし、お湯は始めのちょっとだけ出て終わった。


どちらも一泊朝食付きで1000円弱だった。
ウダイプルの宿は、ホワイトシティの名にふさわしく白くて清潔でどちらも大当たりだったから、ウダイプルは自ずと居心地のいい町となった気がする。

②満たされた食事編

適当な店でビリヤニを食べたが、辛さ控えめで食べやすくて美味しかったし、インドのテレビ番組も見れたから大満足だった。


また別のレストランでは、野菜の味を生かし、油を使わないヘルシーなカレーを出す店だったので、そこで食べたアルーゴビ(カリフラワーとじゃがいものカレーのような炒め物)はおいしくてびっくりした。
「付け合わせに」と瓶に入ったマンゴーのアチャールを食べさせてもらったが、これまたおいしい。

ラッシーももちろん美味しい。


また、湖畔にあるいい雰囲気の、少し高いレストランにも行った。
そこで食べたチョーメン(インド風の焼きそば)もかなりいけていた。

店構えがゴージャス
いかにも高級感漂う。
高級なレストランにある花
醤油焼きそば風。



でも毎日通った一番のお気に入りのカフェはここ。
目当ては、ブラウニーシズラー。
熱々の鉄板に熱々のブラウニーを乗せて、その上に冷え冷えのバニラアイスが乗っかっているという夢のようなデザート、約500円。
飽きもせず3日連続で食べた。
初回は、混んでいたためインド人男性2人と同席することになったのだが、友達の結婚式でウダイプルに来ていたアビとニックに奢ってもらい、しかもチャイとフレンチトーストまでいただいた。ありがとう。今でも時々連絡をくれるいい人たちだった。
2回目は1人で。
そして3回目はジュンさんと。ジュンさんの奢りで半分こ。
インドに来てからはスイーツ不足の日々だったので、かなり満たされた3日間であった。

アビとニック。景色も良い。
熱いものと冷たいもののコラボって何でこんなに美味しいのでしょう。


③アノーキでポーチ病

インドに行ったら物価が安いこともあり、ついつい買い物をし過ぎてしまうのだが、今回は長旅のため、そんなに買い物をしていられないので、必死に我慢をしてきた。
しかし、持病のポーチ病が疼き出している。
私の抱える病「ポーチ病」とは、ポーチばかりをあちこちでつい買ってしまう恐ろしい病気で、買ってから何に使うか考えがちなため、結局使い道がなく、家にはポーチばかりを入れた箱がある。
ポーチに何かを入れるのではなく、箱にポーチばかりを入れるという本末転倒な事態になっており、もう箱に入らないためポーチは絶対買わないと誓っていた。
しかし、インドでANOKHI(アノーキ)を見つけたら素通りはできないし、手ぶらで帰ることもできない。
覚悟を決めて、シティパレス敷地内にあるアノーキに足を踏み入れてしまった。
ブロックプリントの洋服はとてもじゃないが買えないお値段なので、狙うは小物類、やはりポーチとなる。今回は何に使うかを考えてから買おうと決めた。
そして、細長い何に使うのかわからないポーチを発見。
これはあれに使えるかも、と思い、絶対買うと決めた。
色に悩んで数分費やしたが、シティパレスで黄色の部屋に惹かれたことを思い出し、赤青バージョンと黄色バージョンのどちらかで悩んで、初めて黄色の方を選ぶという選択をした。
そして、ついでに同じ柄の別の形のポーチも購入。この「ついで」をやるからお金も貯まらないしポーチも増えるのだと思う。
2個セットで買ったポーチは1つはお湯を沸かすコイルヒーター入れ、もう一つは使い道不明で眺める用。
毎晩お湯を沸かして緑茶や紅茶、味噌汁を飲んで、コイルヒーターをアノーキのポーチに収納するのがささやかな旅の幸せとなった。

シティパレスの敷地内にウダイプルのアノーキはある。
ラジャスタンの衣装を着てウェディングのフォトセッションをしているカップル。
アノーキの入り口からかわいい。
アノーキの店の窓から王宮。
普段なら間違いなく一番左の色を選んでる。
他の店舗がどこにあるかも一応チェック。
結局黄色を選んだ。
コイルヒーター入れのために生まれたようなポーチ。
これは私のインド旅では絶対必需品。1個目がすぐつぶれたので2個目。200円位。
コンセントにさしてこれを水につければ、コップ一杯の水ならすぐに沸く。



(↓Amazonにもある。)


④ハヴェリでナイトショー

カオシンが1人で行って良かったと言っていた、バゴーレ・キ・ハヴェリで毎晩行われている民族ダンスやパペットショー(人形劇)などのショーをジュンさんと見に行くことにした。
欧米人やインド人のツーリストで溢れる会場で、なかなか興味深いショーを堪能。
ラジャスタンの民謡なのか、ジャイサルメールやジョードプルのショーでも聴いた「Kesariya Balam」の演奏をまた聴いた。
それから鮮やかなサリーを着て踊るダンスや、よく分からないシュールなライオンキングのような劇を見て、ラジャスタン名物の人形劇を見て、頭にツボを乗せまくって踊る曲芸を見て終了。
観光地でいかにも観光客向けのショーを見るのもたまにはいいよね、とジュンさんと話しながら夜の湖畔を歩いて帰った。

ウダイプルは数々の映画のロケ地となっていることをあらわす看板。マリーゴールドホテルも。
シュール人形劇。
シュール人間劇。
グーマルダンス
頭に物を乗せる才能のある女性たち
つぼ5個バージョン
つぼ9個バージョン!


⑤絵描き教室でラクダを描く

町を歩いているとよく見かけるのが、「Miniature」と書かれた看板のある、細かいイラストを売っているお店。
そこに「Painting Class」と書いてあるのも見つけたので、そこのお店の人に聞いてみたら、1時間ほどで絵を描く教室らしく、落書きレベルの絵を描くのが好きな私は、その場ですぐに当日の予約を入れ、体験することとなった。
(あくまで素人のお絵かき程度ですので、これから書く私の戯言は真に受けないでほしいし、そんなに上手くないとか下手くそとか言わないでね。)

イラストと可愛い額縁が売っているお店。
この店の2階へ。


まずレッスンは個人宅で行われるらしく、お店の上の2階のベッドへ連れて行かれる。
ベッドに腰掛けて待っててと言われて30分くらい待つ。
予約した時間になっても教えてくれる人がなかなか来ないため、お母さんがビスケットとチャイを持ってきてくれる。
そして見本の絵を6パターンほど持ってきてくれて、この中から描きたいものを選んでおいて、と言われる。
私は、やはりラジャスタン州の旅を記念して砂漠で見たラクダを描きたい。

ベッドの上でチャイタイム。
見本の絵を見せてもらう。
見本は古いはがきを再利用したもの。
このラクダはちょっと好きじゃない。


絵を描くならラクダを描きたいと思っていたが、見本のラクダがあまり好みのラクダではない。
ジャイサルメールの砂漠祭りで見たラクダとはイメージがかけ離れている気がしたので、自分で撮ったラクダの写真を見てイメージを膨らませることにした。

このポップなラクダを描きたい。
脚とか顔の角度とかはこんなイメージ。
飾りとかはこんな感じでいきたい。
顔のアップの写真を見て研究する。


教えてくれる先生(おじさん)がやって来て、「見本は全て自分が描いたものだ」という自慢話を聞いてから、「下書きを描いてあげようか?」と言われたのだが、キッパリ断った。
「私はラクダを描きたいが、こういうラクダを描きたくはなくて、自分のイメージにあるラクダを描きたい。たくさんジャイサルメールでラクダを見てきたから描けると思う。」と偉そうに答えた。
おじさんは、「よし、それならそうしてみなさい。」と言ってじっと見守ってくれることとなった。
あまりにリアルにこだわって描こうとしていた私に、「少しデフォルトした方がいい」というアドバイスを聞きつつ、目を大きめに描いて少しマンガチックになった気がしたが、自分としてはかなり躍動感のあるスケッチができたと思った。

気品があるよね。

ここまでに時間をかけすぎてはいたが、次に色をつけていく段階に入った。
まずは濃いめに下書きの縁をなぞるように言われやってみるが、どの筆もあえてカーブされている形でそれがとても使いにくい。
まっすぐにラインが引けずしょっちゅうはみ出てしまった。
おじさん曰く、筆のカーブを生かして滑らかなカーブを描くのがコツらしいが、この筆に慣れるのに時間がかかってしまった。
はみ出したラインはおじさんが水で薄めて消してくれたりもしたが、あとで上塗りするから気にしなくていいと言われ、言葉通り気にせず進めることにした。

色選びは、私がおじさんに伝えておじさんに作ってもらう流れである。
絵を描く時の台にしている大きな板がパレットも兼ねていて、そのパレットの中から合う色を探して、おじさんが水で延ばしたり絵の具を足したりして調整してくれる。
「うーん、もっと濃いめの茶色」とか「もっと青みのある赤がいい」とか、私もいちいちこだわりを爆発させるため、どの行程も時間がかかって仕方ない。
おじさんはちょっと時間を気にして巻こうとしていたが、色はどうしてもこだわりたかったので、納得いくまでおじさんと時間をかけて調整しあった。

このカーブしたブラシが描きにくいこと描きにくいこと。
はみ出まくり。でも気にしない。
ラクダのボディーから塗る。
こうやって向かい側でおじさんが色を作ってくれる。
他人の家のベッドの上で集中。

おじさんは、「陰になる部分を少し濃いめに重ねていこう」とアドバイスをくれて前脚の部分に見本として影をつけてくれたのだが、かなり良い。
こういうことを習ったことがないので、なるほどと思いながら楽しくて陰影をつけまくっていく。
首の後ろなどもこだわって細筆にかえて描いた。
ここに神経を使いすぎて少し疲れてきたため、私の悪い部分が出てくる。
だんだんと細かな部分が、かなりいい加減になっていく。

左前脚と首後ろに自信あり。


くらの部分の布の柄は、砂漠祭りで見たカラフルな格子柄にしたかったのだが、面倒くさくなって規則性をもうけずに適当にいろんな色をバラバラに塗った。
そして、脚の飾りも前脚から後脚に進むごとに適当になって、最終的には筆でちょんちょんちょんとして終わった。
目は残っている全神経を集中させて魂を入れ、そこでものすごく納得できてしまったので、最後にゴールドの絵の具を出してきて、「さあ、これで輝きを投入しよう!」とおじさんが得意げに言った時には、割ともうどうでも良くなっていた。
適当におじさんが勧める場所に、ゴールドのラインを入れたりして仕上げた。でもそのちょっとしたゴールドのラインや点のおかげで、一気に絵が締まった気がした。
さすがおじさん、プロの技だと思った。

陰影がついた。
後ろ足の飾りはもはや絵の具を足すことも面倒になっており、かすれている。
勝手に描かれた首から背中に向けての手綱が嫌過ぎて、泣きそう。何なん蝶々結びみたいなとこ。
瞳とまつげは全神経集中の渾身の一撃である。
布の柄にゴールドがかなり効いている。
「14Fab2023」も消して自分の字で書き直したいくらい嫌だが、目をつぶろう。
それを差し引いても!
かなりイイ!
好きだ、このラクダ!


最後の完成直前で力尽きた私の隙をついて、おじさんが勝手に手綱を描いたりしたのがとてもムカついた。
やめて、そんなの要らない。
自分の名前をデーヴァナーガリ文字で自分で入れたかったのだが、おじさんまで勝手に私の名前をもう一回書いたりして、日付までおじさんが入れたのがすごく嫌だった。
数字のフォントが汚いし私の趣味に合わない字だった。
消したい。
まあ、しょうがないか。
教えてくれたおじさんの痕跡ということにしよう。
諦めつつ完成。

おじさんの見本とは全然違うラクダになったが、私の見たラクダのイメージをちゃんと描けたので大満足。
もしや天才ちゃうかと自画自賛であった。
おじさん的にはそこまで良いと思ってなさそうだったが、私的には、とうとう私の絵の才能が爆発した!とすら思っていたし、確信していた。
スケッチや色にこだわりすぎて、待ち時間を入れて2時間以上経っていたため超過料金を取られてしまったが、200ルピー(320円)でこれほどまで満足感が得られたのだから、何の文句もない。

こういう絵を私に描かせてほしいと思って歩いた帰り道。
店で売れるんちゃうかと思って歩いた帰り道。
これくらい細かく書こうと思うとかなり根気がいるわな、と思って眺めた絵。


その帰り道、色んな壁画やイラストや売られている絵を見たが、どれも私ほど上手くはないなと思ったりして、謎の自己肯定感に満ち溢れていた。

そのあとに会ったジュンさんにも見せびらかして、無理矢理「天才ですね。プロになれますよ」と言わせたりした。
私は真面目に「最後に面倒くさくなって手抜きになってしまったのが私のだめなところ。何やってもそうなのよ。自分のこの欠点を治さなければ、絵のプロにはなれないよ。」と答えた。

何をやらせても最初の集中力が最後まで持たないのが私なので、このままでは何のプロにもなれない。
真剣にそう思っている私も今思えばかなり馬鹿馬鹿しいが、子供の頃は絵描きになりたかったこともある。絵を描くのが好きだったし美術の授業が好きだった。
落書きっぽいイラストは描くことはあったが、絵の具を使って集中して絵を描くなんていつ以来だろう。
すごく楽しかった。

時々旅先で美しい景色の広がる場所で、スケッチブックを持って絵を描きながら旅している人を見かける。
いいなと思うが、なかなか自分がそれを取り入れるところまではいかない。
私が絵の具でちゃんと絵を描くのは時間がかかるから、腰を据えて旅の先々で絵を描くのは現実的に難しいと思う。
絵を描いている旅人を見るたび、いいなと思いながら、そんな言い訳を時々心の中でしていた。
プロにならなくてもいいし、日常に取り入れなくてもいい。
時々楽しめる時間が持てればそれでいい。
絵の教室は、1つのことに没頭する時間を持てたり、自分のセンスと向き合ったり、自分に謎の自信が持てたりと、いいことしかなかった。
旅先でこれからまた絵の教室を見つけたら、参加してみようかなと思っている。
新しい旅の楽しみが見つかって良かった。


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のりまき
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