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嘆きのウメイドバワンパレス【インド#9】

ジョードプルで絶対に行きたかった場所。
それは、ウメイドバワンパレス。
1929年から1943年にかけてマハラジャによって建てられた割と新しい宮殿なのだが、イギリスのテイストが入りまくっているデザイン。現在もマハラジャが住んでいて、建物の半分は高級ホテルとなっている。
そしてマハラジャのミュージアムまである。
この高級ホテルに泊まりたいなどという分不相応な願いは持っていないが、どうしても中に入りたい理由が私にはあった。

そうそう。
あの映画。
「落下の王国」。


その映画のロケ地巡りのやらせていただいていて、どのシーンも印象的なのだが、中でも私がむちゃくちゃ好きなシーンがある。
スーフィーダンスをしている美しい場所。

あれはてっきりトルコとのどこかのモスクだろうと勝手に思い込んでいたのだが、調べると、インドだという。
(ここで生意気に「調べる」と書いたが、この映画について調べると言ったら、このサイトになるので、結局とほさんのおかげである。感謝。)
あのスーフィーダンスはジョードプルにあるウメイドバワンパレスだと知り、ラジャスタン州を旅するなら絶対寄ろうと思ってやってきた。
高級ホテルに宿泊はできないが、ホテル内のレストランでランチくらいなら、頑張ればできるだろう。
大金を持ってウメイドバワンパレスに向かってやろうじゃないの。
ただし、その前に腹ごしらえに、時計塔のそばのオムレツショップで、チーズマヨオムレツサンドイッチを食べてから行くことにした。
ウメイドバワンのレストランがあまりに高かった時用の保険としてお腹に入れておくことにしたのである。
なんでランチを食べに行く前にサンドイッチを食べてから行くのか、全く意味不明にも思えたが、これがあとあと効いてくる。
私の判断力はいつも研ぎ澄まされているということはさておき。

マハラジャにバカにされないようにちょっといい白のワンピースを着て、青のアリババパンツを重ね着して、ドレスアップして向かうことにした。
向かっているリクシャーでふと足元を見ると、メヘラーンガル城の後に行ったので、うっかりkeenの登山靴を履いていたことに気が付いた。
こんな汚い靴で高級宮殿ホテルに入れてもらえるのだろうか。
門前払いされないだろうか。
ちょっと心配になったが、靴紐を青にしていたから、ブルーシティにマッチしているし、おしゃれコーディネート的にはうまくいっていると信じることにした。

到着!
ウメイドバワンパレス!

なんと!


門前払いされた!!


無理だ!
ガードマンが顔色ひとつ変えずに言った。


そんなバカな。
登山靴のせいですか。
いやそうではない。
とほさんの言う通り、マハラジャ認定証が必要だったのでしょうか。
いやそうでもない。

「プライベートな結婚式があって全部貸切だから、今日から数日間は、関係者しか入れない。」
そ、そんなー。

「絶対結婚式の邪魔しないから、中を見て写真を一枚撮ったら気が済むからお願いします。」
「ダメだ。」

「じゃあ、トイレ行きたい、トイレだけ、プリーズ。」
「ダメだ。」

「ねえ、このために日本から来たのよ、プリーズ。」(厳密に言えば嘘)
「ダメだ!!」

「入り口だけ!」
「No!帰りなさい!」

ううう…。
諦めきれない。
どうして私はジョードプルですぐにここに来ずに、5日間もダラダラと過ごしてきたのだろう。
まずここに来れば良かったのに。
悔やんでも悔やみきれない。

右半分がホテルで、左半分がミュージアムになっているらしいので、諦めきれず、入場料を払ってミュージアムに入ってみた。マハラジャに金を落とすのは非常に悔しいが背に腹はかえられぬ。
マハラジャのミュージアムにもはや何の興味もない。
私にあるのはパレスの中への執念だけ。

ミュージアム内のウメイドバワンパレスの模型を見て侵入できる場所がないか調べる。
これは、あらゆるスパイ映画で学んだ方法である。
何とか右側に忍び込めないか。
ミュージアム内を隅々調べる。
トイレや細い通路もくまなく歩き回ったが、鉄壁のガードである。
私の中のトム・クルーズがなかなか諦めようとしなかったが、ガードマンに怪しい存在として認識されてしまった。
これ以上リスクを冒したら日本の格が下がってしまう。
日本の名を汚すことは私も不本意である。
日本に免じて泣く泣く諦めることにした。

腕組みしてこれを凝視し続ける人は私だけだった。
マハラジャの展示物、何も見てない。
ここまでか。

裏口を探している時に発見できたのは、コンセントの穴にお香を刺しているインド人の工夫のみ。

諦めきれずに、ミュージアムの限界の右端に行き、目眩く美しい世界が中に広がっているであろう宮殿の外観ばかりを撮影。
もう一度ホテルの入り口に行き、別のガードマンだったらもう一回訴えてみようと思ったが、同じガードマンがいて、睨まれて終わった。
そんなわけで不完全燃焼のウメイドバワンパレス。
帰りはトボトボと歩いて帰ることにした。

悔しさを紛らわせるために城まで歩く。
城から見たウメイドバワンパレスはここです。
遥か彼方。


どうせ予定などない私の旅。
ウメイドバワンパレスの中に入れるようになるまで、ジョードプルにいたっていいのである。延泊しようかな、と迷いながら歩いていた。
結婚式がいつ終わるのか分からないし、また別の結婚式が行われるかもしれない。
レストランを予約してみようと思って、ホームページを見た時、1ヶ月以上先まで予約できなくなっていた。
そこでようやく諦めがついた。
もういいか。

いつもなら、「また来ればいいや」と思って諦めるのだが、ここはきっともう来ないだろうなあとも思った。
旅をしていて、たとえば天気が悪かったり、運が悪く絶景が堪能できなかったとか行けなかったとかがあると、いつもこう思う。
「また来よう。」
そして、私はちゃんとまた来るタイプである。
旅でやり残したことや後悔があると、次に来るための理由になるからそれはそれでいいと思っている。

でも、ここ、ウメイドバワンパレスは本当に悔しくて後悔が残った。
だけど、何もかもうまくいく旅はない。
人生も同じ。
時にはやり直しが効かないのもリアルな気がしたし、この後悔も、そのまままるごと残しておきたいような気もした。
なんでも「また来たらいいや」って思って後悔をねじ伏せるのもいいけど、ウメイドバワンについては行けなかった場所、もう2度と行かない場所としてとっておこうと思った。
これからの私の旅で、「また来たらいいや」と思うことは何度もあると思うが、もう二度と来ないって決めてしまうのも、私の場合は特別感が増す気がした。


そんなわけで、オムレツサンドを食べておいて本当に良かった。
天才的な神通力だった。
この状況で空腹だったら倒れてたと思う。
31℃の気温の14時頃から1時間半歩いて城の近くの宿まで歩いて帰ったのだが、高級ホテルのレストランでのランチが消えた分、お金がだいぶ浮いた。
なので、途中で出くわした高級レストラン「マクドナルド」に寄って、マックチキンバーガーとポテトと氷の入ったコーラを飲んだ。(インドでは高級レストランだと思う。)
安心して飲める氷の入ったドリンクは何億年ぶりだろうか。
しびれた。
そして、生き返った。

それからショッピングモールに寄って、黒とゴールドのしゃれたパンジャビワンピースも買った。
ウメイドバワンの悔しさはマクドとワンピに慰めてもらえたので結果オーライだった。
歩いて帰って良かった。


3分あたりからウメイドパレス。

この日の夜も、宿の屋上のテラスでタブレットで映画を再生して確認作業。
何と美しい場所なんだろう。
玄関まで行ったのに中に入れなかったことは、私の記憶の中にいつまでも残そうと思う。

もう手に入らないDVDですが、TSUTAYAなどのレンタルショップにはあるかも。ぜひ。


続く

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のりまき
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