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短編連載小説 長い夜5

「どいつも、こいつも何が万博じゃ!二人だけじゃあ野球も出来ん」
聡はきのう叔父の言ったことを気にしながらも
どうしたらいいのか分からず、相変わらず護とつるんで
毎日山や川で遊びまわっていた。

6年生の春から大阪で万国博覧会が開催されていた。
夏休みになると、愛媛のこんな小さな村でも、
次々とあちらこちらの家族が、大きな旅行かばんを下げて
夜出港する大型フェリーに乗って、大移動をはじめたのだった。
アメリカ館に展示された月の石を見るために。

しかし、護の家も少し前から父親が入院中で
聡と同じように、万博とは縁のない夏休みを過ごしていた。
「なあ、聡ちゃん。母ちゃんに会いたいか?」
護が突然そんなことを口にした。
「はあ~、何じゃそれ。うちには母ちゃんも父ちゃんんもおらんのじゃ。
お前じゃって、ようしっとろうが!」
「ほんでも、昨日のおじちゃんも言いよったやろ?」
護が心配そうに聡の顔を覗き込む。

「ええんじゃ、俺ら兄弟には母ちゃんはおらんのじゃ!」
「でもなあ、聡ちゃんの母さんの住んでる場所。僕は前から知ってるんよ」
「なんで・・・」
何か言わなければと思ったが、次の言葉に詰まってしまった。
「隣町の葛川に母ちゃんの里があってな。その家の近くに
聡ちゃんのおかあさんが住んでるって、
ずっと前に母ちゃんから聞いたことがある」
「・・・」

黙り込んだ聡をいたわるように、護は続けた。
「ごめん聡ちゃん。もうこの話は辞めじゃ。
それより退屈じゃけん、2人で万博より面白い
自転車旅行してみんんか?」
「自転車旅行かええなあ」
聡は旅行という言葉に心が動いた。物心ついてからこのかた
旅行と言えるものは春に行った修学旅行だけだ。
あとは祖父母とたまに、
山向こうの温泉に旅回りのお芝居を見に行くくらいだった。

「うん、ええ考えじゃろ。聡ちゃんと僕だけの秘密の旅行じゃ」
「よしいく!」
聡の瞳にいつもの生気が戻り、決断は早かった。
「うんん。いつにする?」
「早い方がええ!もう明日行こうや」
「うん、そうしよう」
話は、あっという間に決まっていた。

        長い夜6に続く

引き続きみもざさんのイラストを使わせていただきました
どうもありがとうございます

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のり
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