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蝋梅について考える霞始靆
雪深く風が強い地域に生まれ育った家があったので、冬の時期に真赤な椿をお目に掛かることも稀だった。雪が少しずつ溶けていき、折角咲いた梅や桜の花もあっという間に舞い散ってしまう。花というものは儚くて拝むことが難しいのだと自分に言い聞かせて、炬燵で植物図鑑を眺めていた。
蝋梅をはじめて見たのは秩父の宝登山でのことだった。
蜜蝋で作られた花が木に付いているアート作品かと見間違う程に、美しく馨しいその花は一瞬でわたしを虜にした。はたと気付いた頃には周囲は薄暗くなっており、狐につままれたような気持ちで帰路に着いたのを覚えている。
それからというものの、松の内が過ぎる頃は今か今かと待ち侘びてしまうようになった。
そんな厳冬の救世主のひとりである蝋梅について知見を深めたいなと思い、稚拙ながらも図書館で調査したものや撮影した写真を纏めてみました。
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𓂃🌿 名称について
和名は漢名のロウバイ(蝋梅)の音読みであり、花色が蜜蝋に似ていたことに基づいているが、他にも12月にあたる臘月に咲くために転じて名付けられたいう説もある。
古名では中国から来た梅という意味でカラウメ(唐梅)と呼ばれている。
𓂃🌿 特徴について
ロウバイは17世紀に朝鮮半島から渡来した中国原産の落葉低木である。
寒い時期に咲き、花枝が短く花が枝にきゅっとまとまって付くという点でウメに形が非常に似ているが、バラ科ではなくロウバイ科の植物である。
早春になると新しい葉が出てくるより前に、光沢のある黄色の花が枝の節に密接するように付き、やや下向きに花を開かせる。
蝋梅特有の甘い香りは開花する前から漂うので、長い期間目と鼻を楽しませてくれる。
ロウバイの花は見れど、葉は余り見る機会が見受けられない。葉は花が咲き終えた後に出てきて、対生に付き、長鋭尖頭の形を取り、明るい緑色をしている。
また、多数の花被からなっており、艶のある黄色の花びらの部分は中層片と言われる。ロウバイのお花の内側の紅色にあたる部分が内層片、一番外側にある花びらの赤ちゃんのようなちいさな褐色の花びらが外層片である。蕾の時は外層片が全体をくるりと包む形をしている。
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花の近くに長細い実のようなものが枝にくっついていることがある。これは偽果と呼ばれ、花が散った後に花托が肥大したものである。中には褐色の1~4個の痩果を筌のように包んでいる。
厳しい寒さの中に咲く、梅、蝋梅、水仙、山茶花のことを「寒中の四花」と称されている。
また、植物を友と例えた中国の文人らの画題の花となっていたこともあり、中国では「雪中四友せっちゅうしゆう」とも呼ばれている。
𓂃🌿 種内分類群をいくつか
ロウバイには様々な品種が見受けられる。
花全体が黄色を帯びているソシンロウバイ(素心蝋梅)、花弁が広く花径はやや大型なトウロウバイ(唐蝋梅)=ダンコウバイ(檀香梅)など、ロウバイも様々だ。
また、濃い黄色で花弁が丸みを帯びており可愛らしいマンゲツロウバイ(満月蝋梅)は学名表記を見つけることが出来なかった。調べてみると、ソシンロウバイの選抜育種であることがわかった。
プリプリとしたちいさなお月様が枝にいっぱい付く姿はまるで絵本の中に居るかのような気持ちにさせてくれる。ロウバイの中でいっとう好きな品種である。
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蕾が綻び始めた頃
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神楽鈴のようでいまにも鈴の音が聞こえてきそう
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参考文献
・邑田仁・米倉浩司編,新図解 牧野日本植物図鑑,北隆館,2024
・桜井良三編,決定版 生物大図鑑 園芸植物Ⅱ [双子葉植物離弁花類・裸子植物・シダ類など],世界文化社,1986
・ウィキペディア「蝋梅」
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ロウバイ
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曇り空の下でぴゅうと冷たい風を全身で受けながら歩いていると、ネガティブな思考で雁字搦めになりそうになる。そんな時にふと民家や畑に植えられている木々に目をやる。色彩が落ち着いている冬に咲く花たちの鮮やかさはこころのわだかまりをゆるめてくれる様な気がする。日々少しずつ芽吹き始める植物を見ていると、いつの間にか視界が開けてきて、気持ちも晴れやかになっている。本当に自然の力というものはすごいな、と思う。
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枯れゆく様子も美しい寒椿
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利休七則の「花は野にあるように」の言葉が沁みる
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ふわふわと咲く寒い時期の桜、春が待ち遠しくなる
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…
地球の空気が入れ替わったかのように冷たく澄み渡っていて気持ちの良かったお正月は、近所の神社に初詣に行きお神酒を頂き、華やかにして賑やかな街にも繰り出してみたりした。お餅やおせち料理やとっておきのお酒をたくさん飲んで夫婦でゆるゆると楽しんで過ごした。
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とってもかわいい干支生菓子
ゆっくりとゆっくりと近付く春の気配を感じつつ、あっという間に訪れる長い夏の前に、これから何処で何をして過ごそうかと炬燵の中で考えてばかりいます。
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