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烈空の人魚姫 第5章 ダイオウイカ研究室の謎 ③ふとした疑問
カケルは部室内の大混乱を止めるためノートパソコンを操作して、ひとまず動画を一時停止することにした。
呻き声がぴたりと止まると満堂君と式阿弥さんはふぅーと脱力した。
部室のドアを開けたのは隣のクラスの学級委員にして生徒会役員でもあるカケルの幼なじみの松蔭大地だった。
短髪に黒メガネ姿の大地は部室のドア枠に手をかけてにんまりと笑っている。
大地特有の不敵な表情ーーー面白いものを見つけた時の顔だ。
『深海ミステリー研究部、頑張ってるじゃないか。肝試しみたいな感じか・・・俺も混ぜてよ』
「大地は生徒会の仕事があるだろ」
カケルはぴしゃりと言った。
この部活でも大地が目立つのは気に食わない。
生徒会という自分の舞台に全力で集中して欲しいと思う。
大地は成績が優秀だったから、高校は泡津市外の都市部の進学校に進むと思われたが、予想外なことにカケルと同じ地元の府立泡津高校に通うと聞いた時にはカケルはひどく驚いてしまった。
もっと偏差値の高い進学校にもいくつか合格したと聞いていたからだ。
カケルはお母さんがこの幼なじみの大地と自分を日頃から比べるせいで、大地が関わってくる度にテンションが下がってしまうところがある。
それに昔の小学校からのカケルを大地は知っているーーよく上田たちからからかわれていたことを。
大地も孤高なタイプだけど、どの学年でも学級委員を歴任してきたし周囲からの信頼も厚い。カケルのようにからかわれることもない。
大地から見たら自分は人物的に見てひどく矮小な存在なのではないかとーーそう思うと大地の目の届かないところでレベルを上げて同等かそれ以上の存在になりたいという対抗心のようなものがカケルの心の奥底では燃え上がってしまう。
しかしどんなにカケルが大地を遠ざけようとつれない態度を取っていても、大地自体はカケルに積極的に関わってこようとするーーどう言うわけなのかわからないけど。
『まあそう言うなって。面白そうな怪談話じゃんか』
大地はそう言うとノートパソコンの画面を覗き込む。
『壁に出る亡霊かあ。小説の黒猫みたいだな。まあ壁の中にいるのは死体じゃなくてこの場合は幽霊だけど』
『何その例え、意味わかんないけど・・・』
式阿弥さんは怪談めいた空気に疲れたのかテンションは低めだ。
気味悪がるミステリー研究部員とは対照的になぜか大地は楽しそうだ。
いつも真面目に勉学に励んでいる大地からするとこの怪談めいたトピックは軽いコーヒーブレイクみたいな感覚なのかも知れない。
『壁の中にいるのが幽霊だとして、学長さんはこの不気味な幽霊をどうして放っておくのだろうねぇ・・・』
満堂君は余裕を取り戻したのか椅子に座り直した。
カケルも同感だった。
あの不気味な幽霊のことは他の院生たちも知っているに違いない。
院生や他の研究者らから苦情が出たりしないのだろうか。
『インフィニティさんの話では隣町の争いも止めようと思うくらいですしね。学園内のそれも同じ研究棟で起こっている不気味な現象を放っておくのは確かに不思議ですね』
日高さんがいう。
『対処しきれないくらい強いやつなんじゃないの』
とは式阿弥さんだ。
気味の悪い声が止んでいつもの調子を取り戻している。
カケルは大地が部屋に入ってくる前、日高さんがイロード研究室廊下付近の映像の再生中に耳を澄ませて何かを聞き取ろうとしていたことを思い出した。
「そうだ、日高さん。さっき呻き声の他に何か聞こえたって言ってたけどあれって何だったの」
『ああ、そうでした。呻き声の他に何か声が小さく聞こえたんです。小さすぎて聞き取れないくらいでしたが、〝何とか何とかイーヴィルアイ〟って聞こえました。もう一度再生してみましょうか?』
『ああやっぱり呪いの呪文かなんかよ。絶対再生しちゃダメ!でもさっきの呻き声を聞いた時点で呪われてるのかも・・・』
式阿弥さんは首をぶんぶん振りながら動画再生に反対する。
『よかったあ・・・俺ほぼ耳塞いでたからきっとセーフだわ・・・』
満堂君が机の上に顎を乗せて安堵の表情を浮かべた。
リアルタイムでこの呻き声を聞いてしまっているカケルはすでに自分は呪われているのかもしれない•••と肩を落とした。
(大丈夫大丈夫。何も起こらない•••多分)
こんな時、深海の図書館か何かで呪い返しの魔術本があれば心強いのだけど。
ーーーーー
しばらくして大地は生徒会の用事を思い出して部室から出て行った。
この不思議な呻き声と呪文については日高さんでしばらく検証することとなり、深海ミステリー研究部は裏テーマの次の課題に取り掛かることとなった。
【ダイオウイカ研究室への潜入調査】
日高さんはホワイトボードに課題を書き出した。
ダイオウイカ先生はバブルのいるリベルクロスに行ったことがあると言っていたーーー
イロード学長やスランバー、インフィニティはリベルクロスには行ったことがない以上ダイオウイカ先生はリベルクロスに行ったことのある唯一の人物(イカだけど)なのだ。
まずはダイオウイカ先生にもう一度再会するしかない。
カケルは子供の頃に遭遇した、興味の対象に無心で襲いかかってくるダイオウイカ先生を思い出して身震いした。
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