烈空の人魚姫 第5章 ダイオウイカ研究室の謎 11.結局のところ
〈 海底メトロ グレーティストデプスライン リベルクロス直行便 〉
切符にはそう書かれていた。
「ダイオウイカ先生・・・・これ・・・・」
カケルは目を輝かせてダイオウイカ先生を見上げる。
それはずっとカケルが欲しかったもの。
リベルクロス行きの切符だ。
『約束はちゃんと守るのである。リベルクロスまでの便は普通は出ておらんが、リベルクロス駅には直行便の切符が売られているのだ。ワガハイが以前リベルクロスまでいった時に手に入れておいたものをカケルにやろう。まあ、行きはよいよいでも帰りはどうなるかわからんが・・・・』
ダイオウイカ先生はふぉふぉふぉと例の笑い声を上げながら椅子に深く腰をかけた。
含みのある言い方にも聞こえたが、ダイオウイカ先生はリベルクロスにいるバブルについて多くを話したくないようだ。
(でも水圧が強い以外のリベルクロスに関する情報がない中、切符を手にこのままフレイム1号と一緒に向かっても大丈夫かな・・・)
カケルの脳裏に一瞬不安がよぎる。
例えるならRPGでスキルが少ないまま、最終クエストに向かうような気分だろう。
しかし躊躇していては、この流れ星みたいなチャンスを掴み損ねてしまう。
バブルに会いにいくのを阻止しにきたスランバー、殲滅された魔女の一族、魔女と人魚間の争い、能力が出せなくなってなぜかリベルクロスから出れずにいるバブルーーー
数年前、バブルと会いにいく約束をしてから自分自身が一歩前に踏み出すことができなかった時間でバブルの身に起こっていたことーーー
それをちゃんと知りたいと思っていたカケルは勇気を奮い起こす。
(今はひとまず行ってみるしかない。何が待ってるのかわからないけど、目の前のチャンスに飛び込むのみだ)
「ありがとうございます。ダイオウイカ先生。バブルに会ってきます。ずっと会いたかったから・・・会って何があったのか話を聞いてきます。」
カケルはぎゅっと切符を握り締めた。
ーーーーーー
ポルポルは研究室に置いていた自分の荷物をまとめて帰る支度をしていた。
「ポルポル、卒業論文完成おめでとう!」
先ほど卒業論文を提出したポルポルは晴れやかな顔をしている。
『ありがとう、カケル君。君がいてくれたおかげで完成できたんだ。またどこかで会おう。人魚姫とのこと、うまくいくように応援してるよ』
ポルポルはそう言ってウィンクをする。
顔面蒼白、心ここにあらずといった状態でパソコンを凝視していたはずのポルポルは、どうやらしっかりカケルとダイオウイカ先生の会話を聞いていたらしい。
カケルは顔が真っ赤になるのを感じた。
ポルポルが研究室を出て行くと、研究室は再び静寂に包まれた。
ふとカケルは研究室内を見回す。
「あれ、フレイム1号は・・・?」
そういえばさっきからフレイム1号がいない。
カケルはいくつかのデスク下を覗き込んでいると小さな機械音が部屋の奥から聞こえてきて思わず顔を上げる。
研究室の奥のドアの向こう、ダイオウイカ先生が休憩所として使っていた部屋の方からだ。
うたた寝し始めていたダイオウイカ先生に気づかれないよう、カケルはそろそろと奥の部屋に向かう。
休憩室のドアは半開きになっている。
するとウィィンという音を立ててフレイム1号がドアの中から出てきたのだ。
『カケル、ミチノカンソクブツヲハッケン!』
フレイム1号は照明をチカチカと点滅させながら合図する。
「未知の観測物って・・・?」
休憩室にはテーブルと椅子が一つずつあった。
その横に大きなカゴが置いてある。
カケルはぎょっとして固まってしまう。
そのカゴの中に入っていたのは・・・大量の白衣と魚の骨。
•••••••ついに証拠を見つけてしまった。
それは間違いなく、ダイオウイカ研究室からいなくなった研究者や学生たちのものに違いなかった。
カケルは休憩室を出てダイオウイカ先生のところに戻る。
ダイオウイカ先生はあくびをして目が覚めたところだった。
「やっぱりダイオウイカ先生だったんですね」
カケルがそう言うとダイオウイカ先生は目を丸くした。
『一体何のことを言っているのだ』
フレイム1号が白衣と魚の骨が入ったカゴを引き摺ってカケルとダイオウイカ先生の目の前までやって来る。
「ダイオウイカ研究室行方不明事件の犯人は、ダイオウイカ先生だ」
ダイオウイカ先生は『ああ』と一言呟いて椅子の背もたれにだらりともたれ込んだ。
『そろそろ時間なのである。早く行った方がいいのではないかな、カケルよ。』
静かな口調とは裏腹にーー研究室全体に強い重圧がかかり、空気は一気に重苦しくなる。
カケルは仕方なく研究室を後にした。
ーーーーーー
カケルが出て行ったダイオウイカ研究室は静まり返り、ダイオウイカ先生だけのいつもの時間が戻ってきた。
ダイオウイカ先生は椅子から立ち上がると長い腕を思いっきり伸ばした。
『ふう。やれやれ・・・・それにしてもあの少年でバブルを救えるとは思えんがなあ』
その時、デスクの下に落ちていた何かがダイオウイカ先生の足に当たる。
拾い上げてみると、それは小さな手鏡だった。
『何と、こんなところまでこんなものが!!』
その手鏡を見つけたダイオウイカ先生は思わず地面に落とし足で鏡を踏みつけた。
ばりっと言う音を立てて鏡は割れる。
ダイオウイカ先生は割れた鏡を憎々しげに睨みつけた後、荒い息を立てながらゴミ箱に投げ込んだ。
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