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烈空の人魚姫 第5章 ダイオウイカ研究室の謎 ⑥交換条件

精神体のみの今のカケルはある意味無敵だ。
前回まではダイオウイカ先生に攻撃されると生身の肉体のせいで身の危険が迫る感覚があったけど今は違う。
カケルは巨大なダイオウイカ先生に対しても怖がらずに勇気を出せている自分に内心驚いていた。

(これならバブルと再会した時にデートの申し込みも出来るかもしれない•••)

カケルはダイオウイカ先生の前に歩み出ると、正直にこの研究室に来た目的を話すことに決めた。

「ダイオウイカ先生、すみません。研究の手伝いに来たわけじゃないんです。その•••バブルのことなんですが•••前先生にお会いした時に先生はバブルのいるリベルクロスに会いに行ったことがあるって言っていましたーーー僕もリベルクロスに行きたいんです。どうやったら行けるんですか?」

ダイオウイカ先生はバブルという名前に反応して両眼を大きく見開いた。

『ふむむ、君はバブルの知り合いなのだな?バブルは確かにこの研究室の学生であったーー』

ダイオウイカ先生は懐かしむようにバブルがまだダイオウイカ研究室にいた頃の話を話し始めた。

バブルには1年の終わりにダイオウイカ先生からスカウトして研究室に入ってもらったという。
行方不明者が後を立たず、研究にも支障が生じていたからだ。
バブルは学生として【記憶のカケラ】の解析をしながらダイオウイカ先生の助手として手伝いもしていたらしい。

『バブルは優秀な学生だったのだ。あんなことがあったくらいで辞めることはなかったのだ。』

ダイオウイカ先生はため息をついた。
どうやらダイオウイカ先生にとってはバブルの魔女殲滅事件は瑣末な問題に過ぎなかったようだが、バブルにとっては違ったのだろう。

『あの事件以降、リベルクロスに行ったが、バブルはどうしても大学へは戻らないというのだ』


あの、とカケルはおずおずと挙手をする。

「僕が•••バブルを迎えにいきます。昔約束したので•••リベルクロスに会いに行くって」

『ふぅーむ』

ダイオウイカ先生は考え込むように長い腕を組んで思案する仕草をした。

『君のような人間が気軽に行けるようなところではないのである。リベルクロスは深海の最深部にあるーーそれにーーーワガハイが昔最深部の海底調査をしていた時、たまたまバブルがリベルクロスの街を作っているところに遭遇したのだ。あの時から、バブルは普通の人魚ではなかったーー』

「普通の人魚じゃないって?」

『彼女は羽を持っているのだ。深海最深部の水圧も無効化できるような強い魔力を持った泡の羽ーーバブルはこの地球上の生命体とは思えないような力を持っているのである。彼女のように強力な力がなければリベルクロスには近寄ることはできない。』

「フレイム1号は一度リベルクロスにたどり着いたことがあります。僕は精神体のみでフレイム1号と同期シンクロしてるので深海最深部の水圧も関係ないですし場所さえ教えてくだされば行けると思うんです」


カケルは渋るダイオウイカ先生になおも食い下がる勢いで畳み掛ける。
同時にカケルは時折、意識を失った時に闇から浮かび上がる無数の泡を思い出していた。
無限に湧き上がるような泡の羽の泡が地上と深海という距離を越えて、カケルの元にも届いていたのだったとしたらーー


(やっぱり、バブルは僕にSOSを送ってるんじゃないか?)


カケルはダイオウイカ先生をまっすぐ見据えて頭を下げる。

「お願いします。バブルは僕に助けを求めているようなーーーそんな感じ何するんです」


あと一押しで根負けしそうな表情のダイオウイカ先生は『うううーーーむ』と呻きながらカケルの横にいるフレイム1号を凝視する。

『こんな簡易な実装で強力な水圧のリベルクロスに辿り着けるとは思えないのである・・・しかし確かにこのロボットにはバブルの加護が付いているようにも感じる』

(バブルの加護ってなんだろう。子供の頃一度壊れたフレイム1号がリベルクロスに辿り着いたときにバブルがフレイム1号に何かを施したってこと・・・?)

カケルはお辞儀をしたまま、斜め下あたりに浮いているフレイム1号と目が合ってどきりとした。
改めてフレイム1号を観察すると、2つの照明の光に照らされたきらきらした泡がフレイム1号全体を包んでいる。

(もしかしてこれが、バブルの加護・・・?)


『ぬっふぉほぉーーー!!そうであった!!我ながらナイスアイデアなのである!!』


突然ダイオウイカ先生が叫び始めたためカケルは驚いて顔を上げる。
何やら何かを思いついたらしいダイオウイカ先生は長い腕をにゅっと伸ばしてフレイム1号を抱き抱えた。

『少年よ!交換条件なのである。ワガハイの研究を助手として手伝うのだ。実験が成功したらリベルクロスの場所を教えても良いのである!』

ダイオウイカ先生はいい提案を思いついたとばかりに巨大な目を輝かせている。

(さてどうする・・・?)

カケルは頭の中で考えを張り巡らせる。
ここで研究の手伝いなんてしていたらタイムロスだろうか。
でもそれ以外の良策が思いつかない以上、素直に提案に従うべき?
そもそもダイオウイカ先生を信用していいのかもわからない。
提案に乗って本当にリベルクロスの場所を教えてもらえる保証はない。

カケルがふとフレイム1号を見るとーーーフレイム1号は両腕のマニュピレータをくるくるさせ早速作業に取り掛かる準備運動をし出していた。
フレイム1号から満堂君や日高さんたちの声は聞こえてこないのはおそらく地下のせいだろう。
また地上の通信が入りにくくなっているのが残念だった。

(こういう時に意見を聞けたらいいのにーーー)

どうやらまた直感に従うしかないらしい。
カケルは軽く唇を噛んだ。

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あらすじと登場人物




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