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烈空の人魚姫 第5章 ダイオウイカ研究室の謎 ②壁の中にいたのは

満堂君は【シンクロシステム】を起動し、録画再生ボタンをクリックする。

『最初の方はもうわかってるしいいよね』

満堂君はそういうと早送りをする。
途中、電波が途切れていた【海底メトロリュウグウライン】に乗っていた部分に差し掛かったが、本日のテーマは呻き声の確認に集中することとなり【海底メトロリュウグウライン】の部分は後で見返すことになった。
アトランティス大学のイロード研究室のところまで早送りが進み、いよいよイロード研究室の廊下奥から聞こえてくる呻き声の部分までやってきた。

ウウウウウウウ・・・・

『うわわ、出た!!やばいやばい!!』

呻き声が部室内に響き始めると、満堂君は座っていた椅子ごと後ろにのけぞる。

『やだ、カケル君。めっちゃ柱の後ろに隠れてるじゃない』

いつの間にか上田のところから戻ってきた式阿弥さんが画面を覗き込みながらぷくくく・・・という笑い声を上げる。

(フレイム1号め、こんな部分まで映さなくていいのに・・・)

『それにしても、すごいサンゴですね。互いを貪欲に侵食しあっています。太陽光が必要な浅瀬のサンゴがこんな水深の深いところでこんなにも躍動的に生きているなんて驚きます。イロード学長は浅海の白化していくサンゴを見るにみかねてって感じなんでしょうかね。考えさせられます』

日高さんは少し神妙な顔をする。

「まあ確かに学生たちにも慕われている感じだったし、太陽光を鏡に取り込む魔法まで生み出しているそうだから相当な魔力を持った人なんだろうね。優しそうな人だったし、正義感が強い性格なのかも」

カケルは言った。
とは言っても最も一瞬しか会ったくらいでは性格なんて測れないだろう。その日見えていた表面上の姿はその人の一面でしかない。
カケルは今回出会った人たちも、バブルのことも、深海の世界のこともーーー知らないことばかりであることを今回の調査で実感した。


画面の映像はゆっくり暗い廊下を奥に向かって進んでいき、その度に呻き声の音声は大きくなり始める。
廊下奥まで来た時、さっきまでカケルをからかっていた式阿弥さんが『ひっ』と小さく声を上げ、満堂君は見るなりムンクの叫びのような表情で絶叫し、今度こそ机の下に潜ってしまった。


カケルがあの時見れなかった光景が画面には収められていた。

廊下の壁の一番奥ーーーー
2つの影が壁にぶら下がるように突き出ている。

誰かの手だ。

壁から生えた手。
腕の関節から手の先までの両腕がーーー壁から這い出るような形で出ている。
両腕はスーツを着用しているようで、袖から見える両手はごつごつした男性の手だと思わせた。


ウウウウウウ・・・・

なおも呻き声は響き続けていた。
日高さんは怖くないのか、なんと右耳をノートパソコンにくっつけて呻き声に聞き入っている。

(さすが日高さん、すっかり深海ミステリー研究部の部長だな。深海って言うより最早ただのミステリーだけど)

『うーん。さっき何か呻き声とは別に声が聞こえた気がしたんですけどね』

日高さんは首を傾げながらまたパソコンに耳を澄ませる。

『その壁の中にいる幽霊が、呪いの呪文でも唱えてるんじゃないの。気持ちわる!もう一旦停止してよ。不気味すぎる』

式阿弥さんは音声に集中している日高さんの肩を揺する。

呻き声のせいだろう、部室内はいつの間にか空気感が変わっていることにカケルは気づいた。

学校の部室であったことを忘れるくらい、どこか気味の悪い空気ーーー雑木林の中を歩いているようなひんやりとした嫌な空気感ーーー
深海のアトランティス大学の廊下とこの部室は同じ地球上に存在しているにしても、全く場所は異なる。
そのはずなのに、こうして再生することでーーー接点がなかったはずの場所がリンクしてしまうーーなんてことはないだろうかーーーー
カケルは思わず背筋が寒くなり始める。



その時、絶妙なタイミングで部室のドアがガラッと音を立てた。

『うあああああああ!!とうとう幽霊がここまで追ってきたんだ!!!』

満堂君の二度目の絶叫が部室に響き渡る。

(満堂君も同じことを考えたんだ・・・)

カケルは満堂君が激しく怖がったせいで逆に冷静でいられて良かったと内心安堵する。
来るはずのない来訪者に驚いた満堂君は机の中に蹲っていたせいで逃げ出そうと立ち上がり机の裏に頭をぶつけてしまった。

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あらすじと登場人物


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