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烈空の人魚姫 第5章 ダイオウイカ研究室の謎 ⑤来訪者のいない研究室

カケルとナナイロゲンゲのポルポルが入った研究棟の内部はイロード研究室のある棟と基本的には同じ構造だったが、異なるのは地下に続く階段があることだ。

「ダイオウイカ研究室は地下室になってるんだね」

『地下は奥行きのある構造になっていて、窓もないし出入り口は一つだけ。洞窟みたいな研究室とは噂になってるよ。』

「あまり募集が集まらないのは単に環境的に奥まった場所にあるから人気がないだけだったりして」

カケルはそう言ってみたあと、実際の行方不明者が出ていることを思い出し口をつぐんだ。
しかし、ポルポルには少し安心出来る言葉掛けだったのか緊張した表情が少し和らぐ。

『そうだね。単に悪い噂が広がってるだけかもしれないしね』


確かに、とカケルは思う。
単に悪い噂が噂を呼んで、行方不明者が出たという七不思議に昇華されただけの可能性もある。
カケルの知ってる限り、ダイオウイカ先生はカケルが小学生のころから助手らを探している。
バブルが大学に入ってからダイオウイカ研究室にいる間は一時的に研究室は賑やかだったのかもしれないが、バブルがいない時期のダイオウイカ研究室は慢性的な人材不足という問題を抱えているのかもしれない。


研究室の扉はイロード研究室の扉と違い、どこにでもあるような木の扉だだった。
ところどころ劣化した扉の金具部分は錆びつき、四隅には藻がこびりついていて鬱蒼とした地下の雰囲気を悪い意味で盛り上げている。
山中の廃屋を思わせる佇まいの扉は完全には閉まっておらず、5cm程隙間が空いていた。
ポルポルは怯えているのかカケルの後ろに隠れる形になっている。

(僕が先頭に立って入るしかなさそうだな)

さすがに取って食われるということはないだろう。
ここは深海とはいえアトランティス大学という立派な学術機関なのだから。
そう心に言い聞かせつつ、カケルは意を決して扉に近づいてみたーーふと、扉の隙間から赤黒い巨大な何かが覗いていることに気づいた。


「なんだこの赤いのは•••」

カケルの視線は、扉の隙間いっぱいに覗く赤色の物体の下から上に移っていく。
上まで完全に見上げてカケルはどきりとした。
巨大な目玉と視線が合ったからだ。

「うわっっ!」

カケルが思わず後方にのけぞると、ポルポルは七色のヒレを慌てふためかせて今にも階段上まで避難しそうな挙動を見せた。



『ふぉーほっほっほーー!!!!遅いのである!待ちくたびれたのである!!』

扉の中から覗く目玉は叫ぶ。
この声の主は間違いない、ダイオウイカ先生だ。
新しい4年生や助手らを待ち侘びるダイオウイカ先生は扉のすぐ内側で訪問者を待ち構えていたのだ。

(やった!これでリベルクロスの居場所を聞けるぞ!)

カケルはサクッとダイオウイカ先生からリベルクロスの場所を聞き出してすぐにでもバブルの元に飛んでいきたい気持ちをぐっと抑える。


『新しくこの研究室に入るはずの4年生がなかなかやってこないので気になって研究が手につかなかったのだ・・・加えて助手や准教授もいなくなってしまっては【記憶のカケラを用いた魔術本への変換術】に関する研究も捗らずいらいらしていたのである。君たちが今度研究室に入る学生で間違いないのであるな?』

助手も准教授もいないという数年前から今に渡り言い続けているであろうお馴染みのセリフを繰り返しているダイオウイカ先生は巨大な2つの目でカケルとフレイム1号へ視線を配りながら凝視した。

(以前、フラッシュ攻撃をしたことを覚えていて恨んでいるかもしれない。慎重に信頼を得ないといけないかもしれないぞ)

「ダイオウイカ先生、僕とフレイム1号のこと覚えていらっしゃいますか?」

カケルがそう言うと、ダイオウイカ先生は巨大な目を細めて思案するような表情を見せた。

『ふーむ、どこかで見たような気が•••』

フレイム1号がこのタイミングできゅるきゅる機械音を立てながら近づくとダイオウイカ先生は目を見開いて扉を勢いよく開放した。

『おお!このロボットと少年には見覚えがあるのだ!その目・・・青白い炎のような深海を志す情熱を秘めた眼差し・・・君たちは泡津湾で何度かワガハイが連れて行きそこねた者たちだな?ここにいるということは・・・とうとう助手になる決意を固めたということであるかな?』


思った以上に懐が深かったようだ。
ダイオウイカ先生は8本の腕を目一杯広げて歓迎のポーズを取る。
カケルは泡津湾で上田を救出した際のフラッシュ攻撃の件を恨んでいないらしいことが分かりひとまず安堵した。

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あらすじと登場人物

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