“手帳のNOLTY”が『進路実現に強い』探究教材を開発するまで
高校で2022年度より本格的に授業がスタートした「総合的な探究の時間」という科目があります。予測不可能なVUCAの時代を生き抜くための力を育成することを目的とした科目で、授業では生徒が自ら問いを設定し、さまざまな調べ学習や体験を行います。
株式会社NOLTYプランナーズでは、総合的な探究の時間における「社会で生きる力を身に付ける」という目的に共感し、科目として本格始動する前の2019年から「NOLTYスコラ 探究プログラム」を販売しています。この度、2024年版よりコンセプトを「進路実現に強い探究」に刷新し、商品をリニューアルすることとなりました。
今回は、手帳事業をメインとしていたNOLTYプランナーズが探究プログラムを開発した理由や、この度のリニューアルに至るまでの経緯を、学校営業本部副本部長の田中健介氏、探究プログラム開発担当者の小竹森直子氏、2023年からプロジェクトに参画した「New Education Lab」代表・教育アドバイザーの長澤佳則氏に聞きました。
「生涯、成長を楽しむ」生徒を育てる―NOLTYプランナーズの挑戦
―NOLTYプランナーズは企業向けの社員手帳や販促用手帳など、長く手帳の事業をメインとしてきました。なぜ総合的な探究の時間の教材を作るに至ったのでしょうか。
田中 当社では2012年から「スコラ手帳」を使った教育プログラム「NOLTYスコラ プログラム」を中学校・高校向けに販売しています。当社は「能率手帳」の時代から長くビジネスマン向けの手帳を提供してきましたが、スコラ手帳は単にそのノウハウを中高生向けに展開した、というだけの商品ではありません。「生涯、成長を楽しむ力の育成」をブランドコンセプトとして、自己管理力やメタ認知能力といった力を伸ばし、社会で活躍する人材を育てたいという想いのもと、スコラ手帳を全国の学校に展開してきました。
2016年頃に教育業界の動向を調べている中で、「探究学習」が次期学習指導要領の中で重要なキーワードになるという情報を得ました。そこから探究学習に関して学んでいく中で、「自分自身が学生のときにやりたかった」と思うくらい、生徒の資質能力の育成に大きく寄与できるものだと感じるようになりました。
NOLTYスコラのブランドとも親和性が高いと思いましたので、本格的に企画を始動させるため、2017年の年末には社内で役員に向けて「探究プログラムを作りたい」と伝えました。その頃はまだ探究学習というワードは一般的にあまり知られておらず、役員たちも「探究って何?」という反応でした(笑)。その後当社の親会社であり、社会人教育を手掛ける株式会社日本能率協会マネジメントセンターも探究学習に注目し始めたことから、社内でも探究が浸透し、追い風になっていきました。
小竹森 私はその頃に田中から探究プログラムの構想を聞き、探究学習について学び始めました。私も「探究って何?」という状態からのスタートでしたが、探究学習について知るにつれて、「これは『生涯、成長を楽しむ力の育成』をブランドとして目指している私たちがやるべきものだ」と強く感じるようになりました。
田中 探究学習に取り組んでいる学校の先生にお話を伺ったり、アドバイスをいただいたりしながら、2019年にワークブック形式の「NOLTYスコラ 探究ノート」を発売しました。
ただ当時は導入校数が伸び悩みました。営業もまだ探究についての理解が浅く自信を持って営業活動ができなかったのと、まだ探究を取り入れている学校は少なく、先生方からも探究をやる意義があまり分からない、といった反応が大半だったためです。
小竹森 初年度の採用校はわずかでしたが、採用していただいた学校の先生にお話を聞くと、「授業をどう進めたらいいか分からない」「授業準備が大変」という声がありました。様々な学校の探究の授業を見学した際にも、先生・生徒ともに戸惑いながら進めているのが伝わってきたこともあり、商品のコンセプトを「探究の型を身に付けるための教材」に再設定しました。2020年版には3年間に通じた学びに対応できるよう、「基本編」「実践編」、また修学旅行と探究学習を絡める学校も多かったことから「SDGs教育旅行編」、という3つの教材をシリーズ化しました。また、先生をサポートするツールとして指導書や授業用スライドも作成し、「NOLTYスコラ 探究プログラム」としてリスタートしました。
「総合的な探究の時間」が本格始動。進路実現をコンセプトにリニューアルへ
―2022年には高校で本格的に「総合的な探究の時間」が科目としてスタートしました。
田中 チャンスと思って活動しましたが、ここでも導入校数は伸び悩みました。「先生の負担なく探究学習を実践できる」ことを当プログラムの強みとしていましたが、それだけでは不十分だったと感じました。
その頃探究の授業の現状を伺うと、「発表することが目的になってしまい、探究活動が生徒の進路と結びつかない」とおっしゃる先生が多くいらっしゃいました。
探究学習の本来の目的は、生徒が社会に触れることを通して一人ひとりが自身の生き方や在り方を考えることです。つまり、探究での学びが将来や進路に繋がることが大切なのです。この本来の目的と学校の現状とのギャップを埋めるためには、探究の体験を生徒の将来に繋げられるようなサービスが必要なのではないかと考えるようになりました。
そういった思いから2024年版からコンセプトを刷新し、いずれも「進路実現に強い探究」をコンセプトとしました。
「基本編」では、部活やプライベートなど生徒が自分ごとにしやすいテーマで探究が行えるようにしました。生徒自身の興味を深掘りし、生徒自身のなりたい姿を描いてから、「なりたい自分になるためにどういう方法があるのか?どういう方法が自分に合うのか?」を考え、実際に試してみるといったワークになっています。
「地域・旅行探究編」では、身近な地域や旅先等をテーマにして、自身の外側へ興味を向ける内容になっています。どのように社会に参画するかという視点は進路選びに関わってくるためです。
「進路編」では、具体的な志望理由書を作成します。なぜそこに進学したいのか、社会にどのような貢献をしたいのか、生徒の想いを言語化するワークになっています。
ビジネス視点を取り入れ、進路に繋がる「MyBiz編」が誕生
――「MyBiz編」誕生の経緯を教えてください。
田中 2022年ごろ、当時千葉県の私立高校に勤務していた長澤佳則氏と出会いました。そこで日本の進路指導に関する課題観について話し、偏差値ありきの進路選択ではなく、生徒たちのやりたいことに基づいた進路選択が必要なのではないかという話題で盛り上がったのをよく覚えています。
長澤 高校教員として勤務する中で、学校全体で「●●ランクの大学に一般入試で■人合格させる」といった目標が掲げられ、それに沿って偏差値ベースの進路指導をしなければいけないことに違和感を持っていました。学部選びは本人の興味関心に沿って行いますが、高校生が今までの人生経験と今の興味関心だけで決めてしまっていいのか。大学の先でどう自分が生きていきたいか、そのためには社会やビジネスについて体系立てて学ぶ必要があるのではないかと思っていました。そういった問題意識の中で探究学習に出会い、探究であればそれを叶えることができるのではないかと思い、探究が教科化されるタイミングで校内の探究委員長に立候補しました。
先ほど述べたような課題を解決するため、2020年に自身で独自の教材を作ろうと思い立ちました。なぜ自分で作ることにしたかというと、世の中に商品開発を体験できる教材やサービスは数多くありますが、多くはアイデアを出すところで終わってしまい、実現させるためにどうすべきかといったところまでは考えさせないものが多いと感じたからです。ビジネスを学ぶには、幅広い分野の知識が必要となる起業を体験することがうってつけなのではないかと思い、起業をテーマにした教材を作成することにしました。
その後、もともとお付き合いのあったNOLTYプランナーズの営業担当にこの構想を話し、田中さんと出会って探究や進路に対する考え方が一致したことから、MyBiz編の企画が本格的にスタートしました。その後教育コンサルタントとして活動すべく学校を退職し、NOLTYプランナーズには業務委託という形で関わりながらMyBiz編の開発に専念することとなりました。
―MyBiz編はどのような商品になりましたか。
長澤 MyBiz編は起業を疑似体験し、ビジネスの世界を知る教材です。事業内容やマーケティング戦略だけではなく、従業員の雇用、ビジネスを継続させるための資金調達方法まで考えることで、ビジネスについて体系的に学ぶことができます。先生方の説明がなくても授業が進められるよう、各コマに対応する授業用動画もご用意しました。
―制作する上で注意したポイントなどはありますか。
長澤 制作する上で大切にしたのは、高校生にとってもハードルが高すぎない、楽しく取り組めるプログラムにするという点です。毎回内容を100%詰め込んでしまうと、負荷が大きくなりついてこれない生徒もいるため、コマによっての負荷量も考えました。教員時代から「勉強が得意な生徒もそうでない生徒も楽しめる授業」を意識していたので、その経験が活きたと思います。
また教材をうまく授業で使っていただくためには、先生への授業サポートも必須だと考え、先生の説明がなくても授業が進められるように動画教材を制作しました。授業が動画で進められることによって、先生方には生徒の主体的な学びを促すファシリテーションに力を入れていただきたいと思っています。先生はどうしても話しすぎてしまいがちですが、生徒は自分で調べて進めることで探究の楽しさを感じることができるのです。
―MyBiz編はどういった学校に使ってほしいですか。
長澤 学校によってさまざまな探究の取り組みが行われていますが、アイデアを考えるところまでで終わってしまい、実現可能性まで考える機会が乏しい学校が多いと思っています。どうしたらアイデアを実現し、ビジネスとして成功できるのか、また持続的に収益を出し、ビジネスとして継続させていく方法まで考え、壁にぶつかることで初めて生徒の学びになるのではないかと思います。今アイデア出しのみで終わってしまっている学校にぜひ使ってほしいです。
「生涯、成長を楽しむ力」を育む。変化を楽しみ、社会で活躍できる生徒へ
―今後の探究プログラムやNOLTYスコラのブランドについての構想を教えてください。
小竹森 私たちはNOLTYスコラを通じて「生涯、成長を楽しむ力」を育成しています。現代は新しい技術が次々生まれ、今まで不可能と思われていたことが実現し、それまであった仕事がAIに取って代わられる、まさにVUCAの時代です。探究プログラムを通じて変化を楽しみ挑戦できるようになった生徒が、希望する進路に進み、社会で活躍できるよう、これからもサポートしていきます。
田中 これまでに引き続き、キャリア教育の促進と、社会で活用できる力の育成を軸にサービスを提供していきます。しかし、それを達成する方法やサービスの形については変化させていきたいと考えています。
一つ目はサービスのハイブリッド化です。今、学校業界はデジタル化が進んでいますが、これからはデジタル化ではなく、デジタルとアナログのハイブリッド化が必要だと考えています。ハイブリッド化することで、生徒の状態を先生がより早く把握し、適切なアプローチができるようにすることが重要です。
二つ目は進路に向けたサービスの強化です。総合型選抜に代表されるように、学力に+αして生徒自身の想いや考えを伝えることがますます求められるようになると予測されています。しかし、現代の子供たちは自分のことを言語化する経験が少なく不慣れなため、現場の先生たちは言語化のサポートに大きな労力を割いています。探究は生徒の価値観とキャリア観を言語化する大きな機会になるので、私たちはこの言語化をサポートするサービスを作っていきたいと考えています。
<NOLTYスコラ 探究プログラムの詳細はこちら>
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