50代ラストダイエットのワケ

パーソナルトレーナーの仕事を辞めてから3ヶ月と少し
この仕事をしててとても印象に残った人が一人だけいた。
そして私の人生や価値観を変えた人でもある。

ダイエットをきっかけに見違える程、中身も見た目も変わり前向きになった事で私は全くの未経験にも関わらずパーソナルトレーナーを目指した。接客経験もろくにないし人が怖くて外を歩くことすら出来なかったのにその時は怖いものがきっとなかったんだろう、最初に受けた会社で二次面接も通り合格。

ただ驚きはしなかった

私はトレーナーになるだろうな、トレーナーになって同じように見た目に悩み人生を棒に振った人やダイエットをきっかけとして人生を変える人達の背中を押す人になるだろうと何となくこの時もう頭に浮かんでいたから。

大変なことばかりな毎日だったけど担当したお客様で一人だけとても頭を悩ませた人がいた。
ここではその方をA子さんとします。
A子さんはどれだけ筋トレを丁寧に教えても効いてない、痩せない、使ってる筋肉が分からない、と週6で通ってはいつも弱音を吐いていて、詳しくカウンセリングしても中々効果が現れず…私自身とても頭を悩ませていた。

ある時、別のスタッフとタンパク質が足りないのではないかというひょんな会話をきっかけに、それならば！とタンパク質の量だけを極端に増やしたら信じられないほど体重が落ち始めた。

食事は自身でPFCを決めしっかりやっていると以前聞き取った事もあり食事内容も聞く限り欠点は見つからず、代謝や筋量の問題だと思っていたから栄養不足が原因とはトレーナーとして今でもとても不甲斐ない見落としであったと落ち込んでしまう。

ただ後から聞くと、A子さんはあの時は週6で通っていたから安心して思い返せば沢山食べすぎていたかも…と素直に教えてくれました。
それジムあるあるなので大丈夫ですよ〜と笑い話に出来たのはいい思い出です。

急に体重が落ち始めたA子さんはやる気が出た、とパーソナル会員へ手続きしてボディメイクを本格的に始めた。
ちょうどその頃、体脂肪率や体重の落ち幅で順位を決めるという趣旨のもと社内でオンラインボディメイクコンテストが開催されることになった。
このコンテストも会員自身が自分でエントリーするものでありそれをこちらが把握した上で各店舗に通うお客様をサポートするという感じだった。

A子さんはこのコンテストにエントリーしてジムに来た早々私に向かって
絶対一位を獲りたい、やるからには本気でやる、これが人生最後のダイエットにしたいからご指導お願いします。と言った

あ、これは本気のヤツだ、とすぐに分かった
目が本気だった
何が原動力になったのかわからないけどA子さんはとにかくやる気に満ちていて私はとても圧倒されたのを覚えている。

同時に私も久しぶりにすごく燃えた
絶対この人を一位にしたい
勝たせてあげたい
本気で向き合って体を変えてあげたい

それからの半年近くはA子さんの意志を確認しつつどんな体にしたいか、ヒアリングや食事も相談に乗りトレーニングメニューも日に日にキツくなる中、耐えて我慢してトレーニングの最後には毎回必ず深く頭を下げて今日もご指導ありがとうございました。とお辞儀をしてくれた。

A子さんは当時50代半ば～後半だったと思う。
面白いのがA子さんはどんなにトレーニングがキツくてもキツくない！平気だ！と弱音はおろかマイナスな発言を絶対にしなかった。
同じ50代の方のパーソナルをしていても大半の人が息の根をあげるか20分後にはへとへとで参っている。

半年も続けているとA子さんは自分で食事もコントロール出来るようになり食べるものをきちんと選んで自宅でのトレーニングもしつつ服のサイズはLからSサイズに変わっていた。見違えるほど変化していたのもそうだけど何より表情や発するオーラがまるで別人だった。

肝心のコンテストの結果は2位だった。
悔しかった、A子さんはその数字に満足していたし賞金も出た。
それでも私は本人以上に悔しくて申し訳ない気持ちで心が満ちていた。
コンテストが終わってもA子さんはトレーニングを続けてくれて
この頃とのA子さんとの目標は無理のない食事と運動を生活の一部とした健康を保つ為のトレーニングでした。

もう私の手助けがなくともA子さんは大丈夫だろうなぁと正直感じるほど自立してトレーニングに励んでいた。
それから数ヶ月後、私は退職することが決まり最後のA子さんとのトレーニングの前にそのことを伝えた。
A子さんはボロボロ泣いていたし私もボロボロ泣いた。
A子さんは泣いちゃ駄目だよね、野田さんに教わったトレーニングと今までの成果、最後にしっかり見せますと涙を拭って取り組んでくれた。

A子さんからもらった手紙がある。
そこには沢山の感謝の言葉が詰まっていて

人生が変わったこと
自分に自信がついたこと
食べることの大切さ
旦那さんと週一で甘いものを食べる日が出来たこと

そしてずっと分からなかったA子さんがここまでダイエットやボディメイクに本気で取り組み人生を賭けた理由がそこには書いていた



春から自分の元を旅立つ娘に少しでも頑張っている姿を、何歳からでも頑張ればやれるんだってところを見せられてよかった、と



あぁ、これか
A子さんが痩せたかった本当の理由はこれだったんだ、と

ずっと表面的な痩せたい理由は何度も聞いていた
昔の体重に戻りたい、Sサイズを着たい、食べても罪悪感のない生活をしたい、これは確かに目標だけどA子さんがパーソナルトレーニングを始めた時のあの言葉と真剣な眼差し、そして半年以上たっても継続できる理由としては薄いと思っていた。

きっと他に理由があるんだろうな、何が彼女をそうさせているんだろうとずっと気になっていたけど最後の最後で知ることができた。それは多分A子さん自身も気づいていなかったのかもしれない。
沢山の時間を共にしてトレーニングをしてきたけど娘さんの事が話題に出てきたことは一度もなかった。
言わなかっただけか本人も気づかないところで、これから沢山の困難や辛いことが待ち受けているけど粘り強く立ち向かうことで開ける道や世界があることを、自分の元を離れる娘さんに向けて最大のエールを送りたかったのかもしれない。

それは多分ダイエットやボディメイクじゃなくてもなんでも良かったかもしれないけどA子さんの痩せたいという想いがいつしか誰かの為に、という気持ちに変わっていったんだと思う。

手紙を読んで私は安心して辞められると思った。
後から聞いた話ですがA子さんは転職をしたとのこと
きっとどこかの誰かの為にA子さんは今日も全力で頑張っているんだろうな

私もまた、誰かの背中を押すためにもう一度トレーナーをしようかと今考えている。