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ミキシングメッセージ。
名探偵コナンだったかな、いや金田一少年の事件簿だったかな、まあどちらでもいいか、
何者かに殺された人が死に際に残すメッセージのことを「ダイイングメッセージ」とよんでいた。死者が自分の血を使いイニシャルなどの英語文字をかいているような、あれだ。
英数字をみて、何かを感じ、何かを受け取り、何かを推測する。
美容室でも英数字を多用する。お客様の個人カルテだ。
ある英字と数字(比率)が並ぶと何かしらの暗号みたいに見える。その暗号を見ると
「あー、なるほど、こんな髪質の人にこんな感じの色にするんだろうな」
みたいなものが読み取れる。これは経験をつんだ美容師ならば可能となる能力だ。ましてやカラーリストともなるとより高度なやりとりになったりもする。
「半年前カラーはこうで、前回のカラーはこれくらいにしたから、それに合わせてこれをミックスして、あー、だからこの色を少しだけいれたのでは?」みたいなことを推測で話しそして、その方のライフスタイルすらも言い当てることができるとか。
このミックス比率の暗号のことを
「ミキシングメッセージ」
と名付けてみた。ふと湧き出した言葉を思いついた後にコナンを思い出した。
キャッチーな名前の方が若者に響きやすいかなと思う安易なおじさんの気遣いと、そして覚えてもらいやすいかなと思ったからだ。
今、直属に着くアシスタントにもカラーを教えねばと思い、日々のサロンワークの中で教えられることから教えていこうと考えた。
これは意図してこちらが行うことではなく、アシスタント自ら横に立ち盗み取っていくものだと思う。
がしかし、なかなか忙しくなるとすぐ隣にいるというシチュエーションも難しくなるし、こちらからもなんらかしらのアクションを起こしてみるかと思い立ったわけである。
落語家さんが、よく師匠に稽古をつけてもらう、という表現をする。この話はあの師匠の十八番だから、この話はあの師匠が得意だよ、とか自分が習得したい話を直に教わり、そしてそれをまた弟子に伝えていく。伝統芸能はそうやってこれまで話継がれてきた。
職人的という意味では、噺家さんも美容師も同じだ。
手に仕事、芸は呼吸、ともいいますが、
配合を見て、作り手が何を考え何を目的とし、何をもくろんでいるのかを感じることができればカラーの理論をもっと楽しむことができる。
ミキシングメッセージである配合を見て、何を受信し、そして何を返信できるか。
R9 : A8 : MT7 : V6 = 3:1:1:10%
M8 : G7 : BL = 5:1:20%
N12 : P8 : RED 1:1:10%
この暗号のような対比をコントロールというのだが、この数字と薬剤の色と明度をみて作り手の目論見を言い当てることができれば、ある意味一人前のカラーリストになれるような気がする。
あのお客様の髪質だからこうしているのだろう、この濃さ、この鮮やかさ、この明度の設定、カラーリストとアシスタントの意思疎通はそのようにしてでき上がっていくのではないだろうか。
弟子が師匠の呼吸や間を感じ取り、次に発する言葉を予測することができれば、よりヘアカラーの深さを感じ、混ぜることの面白さという理解を手にすることができるのではないだろうか。
早くこのミキシングメッセージをしっかりと受信でき、気持ちよく返信できるようになれればいいなと思う。これは日々の積み重ねで如何様にでもなれる。実際にカラーをしなくても自分の頭の中で何度でもカラーできるのだ。そして師匠の芸を盗み、自分のオリジナリティへ召喚できればいいのだ。
自分もこうやって経験を積み重ねてきた気がする。
翌日、
あの話はいい話だったよね、言わんばかりにの鼻つまみおじさんはアシスタントに聞いてみる。
「昨日の話、覚えてる?」
「あーと、えーと、なんとかメール、あれなんでしたっけ? いい話だったのは覚えてるんですが…」
とまあ、
覚えてもらいやすいと思ってカッコつけたつもりだが、そこはうまく受信できていなかったようだ。
若者には。