
「スクラム×人事」— 変革を生み出す新たな視点
先日、認定スクラムマスター研修(RSM)に参加し、これまでエンジニア向けと捉えられてきたスクラムの概念が、人事領域にも大きな可能性を秘めていることに気づかされました。そして、スクラムの基本的な考え方は職種業種に関係なく、多くのリーダーが身につけておくべきものだと感じました。今回は、僕が研修を通じて実感した気づきと、その応用方法についてご紹介します。
1. スクラムの基本
ビジネス用語としての「スクラム」という言葉を耳にしたことがある方は多いと思います。
スクラムは、複雑なプロジェクトを効率よく進めるためのアジャイルフレームワークです。簡単に言えば、短期間(スプリント)で目標を設定し、定期的なミーティングを通じてチーム全体で改善していく仕組みとなります。
複雑な問題を解決するためには、小さな単位で迅速に作業し、フィードバックを得ながら改善していく方法が有効であるという思想に基づいています。

スクラムにはいくつかの用語が存在します
スプリント: 1-2週間などの短期間で、計画、実行、評価を繰り返す
主要な役割:
プロダクトオーナー(PO): 製品やプロジェクトの方向性と優先順位を決定する
スクラムマスター(SM): チームが円滑に作業できるよう支援する
開発チーム: 実際の作業を担う
定期ミーティング:
デイリースクラム: 毎日の進捗確認
スプリントレビュー・レトロスペクティブ: 成果の振り返りと改善点の議論
2.スクラムが生まれた背景、スクラムへの誤解
スクラムが生まれた背景に関する解説としては、次のようなものがあります
スクラムは、1990年代に ジェフ・サザーランド(Jeff Sutherland)と ケン・シュウェイバー(Ken Schwaber)によって開発されたアジャイル開発手法です。もともと、ソフトウェア開発の現場では、ウォーターフォール型(要件定義→設計→開発→テスト→リリースの直線的な進め方)が主流でしたが、この方法では変化に対応しにくく、プロジェクトが長期化し、失敗することが多かったのです。
私は、この解説が多くの誤解を生んでいるのだと思います。ウォーターフォール開発の対比の手法として捉えられることで、エンジニアリングの開発手法なんだろうなと。実際、使われる用語も英語でどうも開発手法のように見えてしまう。しかし実際は、多くの職種でも適用できる手法なのです。そして、スクラムの考え方は人事の世界でも十分通用できるものだと思います。
3. 人事領域への応用の可能性
人事がスクラムを理解し使えるようになる
人事は社員のエンゲージメントや主体性向上を重視し、書籍や事例研究を行っていますが、具体的な実践は現場主導の方が効果が高いことから、現行部門に任せきりになることが多いのが実情です。理論は知っているが現場感覚で実用する力は弱い、これが人事の課題・ジレンマでもあります。
しかし、人事がスクラムの考え方を理解し、その推進方法をアドバイスできるようになれば、より説得力が増します。そのためには、人事チーム自身もスクラムチームとして機能し、試行錯誤しながらスクラムの実践を積んでいくのも有効な手段であります。
組織開発の新たな手法として活用する
スクラムはチームで仕事を上手に行う手法にとどまらず、自己組織化や継続的改善を促進する文化です。スクラムの「透明性」「検査」「適応」を意識した取り組みは、人事業務にも十分有効に活用できるものです。
例えば、採用業務では高い目標と膨大なタスクに追われ、KPIに縛られすぎるとチームの士気が低下することがあります。スクラムを導入すれば、定期的な振り返り(レトロスペクティブ)を通じて業務の優先順位を調整し、柔軟に対応できます。また、定期的なコミュニケーションにより、課題を早期に発見し、チーム全体で解決策を考えることが可能になります。
スクラムの考えを活用すれば、単なる数値目標の達成ではなく、健全なチーム運営と持続的な成果を生み出せる環境を整えられるでしょう。
WhyとWhatの明確化で、人事施策の納得感を向上させる
スクラムではタスクを「プロダクトバックログアイテム(PBI)」として管理し、「What(何をするのか)」と「Why(なぜそれをするのか)」を明確にします。エンジニアの現場ではこの考えが定着していますが、人事領域でも同様に重要です。
人事施策は経営方針やトップの意向で進むことが多く、Whyの説明が不十分なまま実行されることがあります。その結果、現場の納得感が得られず、施策の浸透が進みにくくなることもあります。スクラムの思想を取り入れることで、施策の目的や意図を明確化し、透明性が高く納得感のある人事運営を実現できるでしょう。
一方で、従来型マネジメントと使い分けも必要
上記のとおりスクラムはチームの柔軟性や効率を高める優れた手法ですが、すべての状況で最適とは限らないと思います。状況に応じて適切に活用することが大切です。
例えば、企業の危機管理や緊急対応では、スピーディーな意思決定と明確な指揮系統が求められます。こうした場面では、従来型のマネジメントの方が適していることもあります。特に、人事部門や経営層がリーダーシップを発揮する必要がある場合は、迅速な判断と統率が欠かせません。そのため、スクラムの柔軟性だけに頼るのではなく、状況に応じて従来のマネジメント手法と組み合わせることが必要になってくるのではないかと思います。
4.まとめ
認定スクラムマスター講座(RSM)で得た学びは、エンジニアリング領域だけでなく、人事領域においても大きな可能性を秘めていると感じました。特に、現場に任せきりになりがちな課題に対して、具体的な解決策を考えるうえで有益なヒントを得ることができました。
もし、これを読んで頂いている皆さんが人事プロセスや社内コミュニケーションの改善に関心があるなら、一度スクラムの考え方を取り入れてみることをおすすめします。スクラムの手法を活用することで、新たな働き方のヒントを得ることができ、組織全体の成長につながる可能性があります。
組織をより良くするための一歩として、スクラムの考え方をぜひ試してみてはいかがでしょうか。