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〈書評〉「悪い性格」の要素を網羅的に理解する│『パーソナリティのダークサイド』下司忠大(監訳)

■私たち自身にも潜む性格の「悪い部分」
■悪い性格は場合によっては適応的?
☆あらゆる悪い性格を知る為に!
☆必要なのはまず○○すること

誰にでも潜む性格の「悪い部分」

 あらゆる性格の悪い側面を概観してみたくないか?そこにある特徴と、他の特徴との関連性、もしくはダークサイドの中にある適応的な部分について知りたくないか?この分野における研究を総括し、「性格が悪い」とはどういうことか、完全に理解する第一歩が、この「パーソナリティのダークサイド」だ。本書は、ダーク・ペンタゴン(マキャベリアニズム、ナルシシズム、サイコパシー、サディズム、スパイト)だけに留まらず、切迫性や自信過剰、自尊感情の高すぎ低すぎなど、不適応に繋がる性格の要因をそれぞれ分析する。

 ひとつ、中でも面白い概念をピックアップしよう。「恐れ知らずの支配性」だ。これは、対人能力、物理的な恐怖心のなさ、リスクテイキング(引き受ける)、危険に直面した時の冷静さなどを特徴とする。その典型的な例として、本書は、人類初の音速を越える飛行を試みて、見事成功させたチャック・イェーガーを例に上げる。彼は、当時のエンジニアの忠告を一蹴し、死を全く恐れなかった。

 しかし、彼の私生活では、問題もあった。この飛行をした2日前、イエーガーはバーで飲酒した後に乗馬し、助骨を2本骨折していたのだ。しかも、それを上官に隠して飛行機を操縦した。もしくは、1年後、時速600マイル以上の速さで水上のボートすれすれを飛行し、ヴィクトリー・ロール(任務成功の時に行う飛行)を披露し、空軍と連邦航空局の規則に明らかに違反した。

 「恐れ知らずの支配性(FD)」がサイコパシーの本質的な部分であるのかは議論がある。ともかく、この特性には、適応的な部分もありつつ、不適応な部分もあるのは明白だ。適応的な部分としては、42人の大統領達のFD評定値は高く、またFDの高さは、世論調査や、功績を評価する客観的な指標において、リーダーシップ、国民の説得力、コミュニケーション能力などと正の関連を示した。

 一方で、FDの高さは反社会的行動の指標と正の関連を有する。もしくは、性的リスクテイキングとも関連性があった。FDは、それ自体で悪質になることは滅多にないが、低い実行機能と合わさった時に、無計画なリスクテイキングを行う事になってしまう。実際、チャック・イエーガーが飛行を成功したのは、彼の高い能力があってのものである。もし、そのような能力がなかったら?つまり、ここから分かる事は、ダークなパーソナリティとは、状況との兼ね合いによって決まるということだ。

 本書は、このように、ダークになりうるパーソナリティの光の部分と影の部分に焦点を当て、特性の功罪を浮かび上がらせる。どちらかといえば、ポジティブな側面についての記述が多い事もあり、単純にどれも悪い性質だと言い切れない構造になっている。一方で、本書は、自身の中の悪い性質に自覚的になる意義をも持っている。なぜなら、これらは、良い側面があるからといって単純に開き直れるようなものでもないからだ。ある種、適応の為にダークなパーソナリティを身につけた人は、改善のきっかけを掴む事が出来るだろう。皆も、この網羅的な一冊において、一つぐらいは、自身に当てはまるものがあるはずだ。その事実を拒絶するのではなく、まず受け入れるきっかけになるのではないだろうか。

筆者プロフィール

抜こう作用

 大学生。21歳。インターネットオタク。カトリック求道者。メインジャンルは、宗教学、哲学、心理学。座右の銘は「裁いてはならない(マタイ7:1)」。

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