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〈書評〉よくある理論、実は「構造主義」だった│『はじめての構造主義』橋爪大三郎

■私たちの普段の考え方には構造主義が潜んでいる!?
■構造主義の火付け役のレヴィ・ストロースの議論
☆根幹の考え方を改めて学び、考え直す
☆人生においてこの考え方が使える範囲と使えない範囲を考えてみる

構造主義は我々の中にある

 昨今、ポスト構造主義という言葉を耳にする機会が多い。例えば、日本社会で「VTuber」が流行っている理由は、ポスト構造主義によるものだ、とか。え?聞いた事がない?そんな人には、ひとまず、ポスト構造主義は現代を語る上で極めて重要なキーワードなのだと言っておこう。これは、我々の今の社会、文化に密接に関わっていて、知っておかなければならない事なのだ。それを聞いて、少し興味を持った君たち。だけど、その前に問題がある。即ち、「ポスト」の部分は「後の」という意味で、ポスト構造主義は、構造主義の後を意味する。即ち、まず構造主義を知らなければならない。

 構造主義とは、物事の捉え方のひとつだ。哲学的な考え方にはなるのだが、どちらかといえば方法論に近い。本書は、この考えのブームの火付け役である、レヴィ・ストロースを紐解き、構造主義の核心に迫っていこうとする。それを少し説明しよう。

 まず、人類学には、機能主義という考え方があった。これは過去の歴史主義、伝搬主義を淘汰してきた考えで、要するに、社会の文化とか宗教とかを、それがその社会にとってどのように機能してきたかで解釈しようという考え方だ。これは、長い間支配していた、文化に優劣を付ける考え方に抗う作用があったのだが、でも、それでは説明が付かない事も多々あった。それを解明しようとしたのがレヴィ・ストロースである。

 レヴィ・ストロースの構造主義は何が違うのか?ひとつは、「役に立つ」的機能ではなく、人間の「こうしたい」的欲求が積み重なった結果として、社会に「構造」が出来上がっていると読み解くところだ。コミュニケーションとは、単なる会話ではなく、対人的な関わり全般を指す。そして、この「こうしたい」とは「コミュニケーション」であり、コミュニケーションの方法の違いで、文化の差異が生まれるが、根本的には普遍の構造を持っていると捉える[と本書を読んだ筆者は解釈した]。

 具体的には、インセスト・タブー、即ち近親相姦の問題がある。部族や文化間で、近親相姦の範囲が違うのはどういう理由があるのだろう?遺伝子のバグを防ぐ為、では、近親相姦を禁ずる理由は説明出来ても、その禁止範囲に違いが生まれる理由を説明出来ない。これを、レヴィ・ストロースは、女性の贈与という一種のコミュニケーションによって説明する。即ち、集団間で、どのように女性を贈り合うかによって、その相互作用的関係を破壊しないように、近親相姦の範囲が定められるのだ。このように、レヴィ・ストロースは、人類が皆、女性にとっては大変不本意な話ではあるが、共通の構造によって規定されていると考える。

 このように、普遍的な構造が根幹にあって、それが社会を規定していると考えるのが構造主義ということだ。これは、昨今の議論にも通じている。例えば、環境によって子供がどう育つか決まる、と言ったとき。そこには、環境には、子供を良く育てる規定された構造というのがあり、それが子供の根本を決めるという発想がある。ある種の構造主義的な議論をしているのだ。

 この考え方について、皆さんはどう思うだろうか?確かに、マクロな視点で見れば、構造があるのは事実だろうと考える人が多いように思う。一方で、それを認めてしまったら、人間の意思というのはどこまで残っているように感じるのだろうか?静的な構造があって、それが我々を決めてしまうという考えに覚える、若干の寒気には、どうすればいいのだろう?本書は、それには答えを与えない。ただ、我々のよく考えそうな事の根幹の成り立ちを指し示すだけである。ただ、本書を読むことで、初めてこのような問題に直面する・できる。冒頭で書いたポスト構造主義は、この構造主義の問題を批判的に捉えつつ、議論を継承した哲学の系譜だ。その議論を概観する前に、あなたも、自らの手で、この議論に、寒気を覚えることができる。本書はそのような一冊である。

筆者プロフィール

 インターネット・オタク。哲学、心理学、宗教学、神学に興味を持つ。カトリック求道者。大学生。

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