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〈書評〉SNSでの政治議論の前に、経済の基礎論を│『経済学を学ぶ』岩田規久男

 我々はXで政治論争をする以前にしなければいけない事がある。経済学の勉強である。

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 『経済学を学ぶ』はちくま新書から出版された、経済学の入門書である。本当に経済学の基礎の基礎から学べるのだが、既にその基礎段階から、緻密に構成された論理があり、この体系の魅力を存分に体感出来るものとなっている。内容を思い出すついでに、簡単に紹介しよう。



本書の解説

 筆者はまず、市場の効用について解説する。市場とは、物々が交換されるシステムの事を指す。例えば、市場においては、一つのものを生産するのに、かかる費用を削減しようとする。そうすることで、生産に対して使われる資源量の削減が進む。対して、社会主義国家においては、それで発生した利益の所有がそもそも認められなかったりするので、生産にかかるコストを減らそうとする動機が生まれない。

 次に、ミクロ経済学の基礎理論を概観する。重要な概念は、需要と供給の他、需要と供給の価格弾力性という概念がある。価格弾力性とは、価格が上昇した時に、どれだけ需要が減少するか、もしくはどれだけ供給が増加するかの値である。例えば、日用品、特に野菜などは、価格が上昇したからといって完全に断つ訳にはいかないので、需要の価格弾力性は比較的低い。その場合、反対に、供給が少しでも低下すると、価格は跳ね上がる。また、供給においても、住宅などは価格が上がっても直ぐに供給を増やす事が出来ないので、供給の価格弾力性は低い。その場合、需要が少しでも増加すると、こちらも価格は跳ね上がる。

 競争的市場が計画経済に打ち勝っている点は以下にある。まず、競走的市場においては、企業が利潤を増やす為に生産費用を削減する。そうすると、多大な利益を上げ、また他の企業もそれに習う。それを見て、利益を上げる為に参入した企業によって供給は増大し、価格は低下する。それによって、消費者は、安価に便利な製品を手に入れる事が出来る。また、計画経済のように、需要と供給によって価格が適切に決定しないと、希少な資源を無駄遣いする事も起こる。

 次に、日本経済を概観する。まず、幾つかの差別価格政策は、需要の価格弾力性を元に行われるという。要するに、価格を下げたら沢山需要が増える層に対して価格を下げるという事だ。次に、価格支配力という概念が重要である。価格支配力とは、一つの企業が、商品の価格に及ぼす影響力・決定力である。もし、一つの企業の価格支配力が高ければ、値段を釣り上げられても、消費者はそこで買うしかなくなる。だから、なるべく競走を保つのが望ましい。もしくは、複数の企業で団結して価格を釣りあげようとする試みに対しては、独占禁止法などで対応する。

 次に、岩田は、マクロ経済学について説明する。ミクロ経済学は、1776年のアダム・スミス『国富論』に端を発するものだが、マクロ経済学はケインズの『雇用・利子及び貨幣の一般理論』(1936年)が理論支柱となって出来た領域である。マクロ経済学の基礎理論とは次のようなものだ。完全雇用(非自発的失業者がいない状態)は達成されない方が基本である。理由を述べよう。まず完全雇用が成り立つという議論を見てみると、非自発的失業者は働きたいので賃金を下げてでも働き、そうすると企業は多くのものやサービスを作ろうとするので、雇用が増え、最終的に完全雇用が達成される、というものだ。しかし、これには問題点がある。ケインズによれば、賃金が下がると需要が減るので、企業の売上は減り、従って雇用も減るのである。

 しかし、そもそも、なぜインフレやデフレが起こるのか?それは、総需要の変動と、総供給の変動によるものがある。岩田は総需要について解説する。需要が減ると、物価は下がり、国民総生産は減り、失業が増大する。逆もまた然り。つまり、物価の安定を計るには、総需要のコントロールが重要である。その為、財政政策によって市場に出回るお金を調整する必要がある。出回りすぎれば、需要が増え、インフレに。少な過ぎれば、需要が減り、デフレに。どちらも防ぐ為に、政府は財政をコントロールしなければならない。

総評

 本書で述べられている議論を概観して見ると、まず、その緻密な論理に驚く。その上で、現在の政治家が掲げる幾つかの経済的主張を成り立たせる、基礎の基礎を理解する事が出来る。現実の経済問題を例に出して、抽象理論を分かりやすく説明された本書を読めば、今一度、身近な経済の仕組みについて知る事が出来るだろう。それによって、世の仕組みについての無知から脱却し、より発展させた議論を理解するきっかけにする事も出来る。優れた入門書だ。最後に載っているブックリストも極めて有益。


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