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【特別企画】バチ当たり大宰府妄想紀行
※この投稿は完全フィクションです。完全にフィクションです。
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「ついに来ちゃいましたね……西田課長」
「うむ……未桜くん。なかなか風光明媚なところじゃないか……」
わたしの名前は今多未桜。
某女優さんと同じ音なのでよくイジられるが、今年で32歳。
あんなに目はでかくないし、おっぱいはない。
東京に本社がある印刷会社の大阪支社に勤めている。
今日わたしはついに……不倫関係にある西田課長とはじめての旅行に出かけた。
行先は福岡県。
出張を偽った週末の(バレバレな)一泊二日旅行……
まるで巨大な大人のおもちゃにも見えるピーチエアの国内便に関西空港から乗り込み、福岡空港に降り立つ。
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そして福岡空港から博多駅まで移動すると宿に荷物を預ける。
まだ午前の早い時間だったのでバスで大宰府観光に出かけた。
「太宰府天満宮は謀略で都から左遷された菅原道真が、不遇のうちにこの地で亡くなったあと、その霊を祀るために作られたんだそうだ……」
「そうなんですか……」
誰でも知ってる蘊蓄を語る西田課長。
まるで東京本社勤務で部長代理に昇格したとこだったのに調子に乗っていきなり新入社員に手を出した結果会社にバレ、降格のうえに大阪支社に飛ばされた課長みたいですね……という言葉をすんでのところで飲み込む。
まあ西田課長の場合は謀略でも何でもなく自業自得だけれど……
二人で肩を並べて修学旅行生でにぎやかな参道を歩く。
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「ふふ、修学旅行か……懐かしいなあ……未桜くんは高校生のとき、どこに修学旅行に行った?」
「沖縄です……フェリーで行きました」
「沖縄か……僕は、長崎だったよ……」
そこでしばらく無言になる課長。
なんだろう……距離で負けたと思ってるんだろうか……
「で、未桜くんは中学生のときは、どんな制服だったのかなあ?」
と、いかにもイヤらしい笑みを向けてくる課長。
「いえ。私学で私服でした……」
「私学で……私服か……」
また沈黙。
なんなんだろう。
それにしてもわたし、なんでこんな男と不倫してるんだろう……?
参道を抜けて鳥居を通り、左に進むと太鼓橋が見えてきた。
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「足元に気を付けてね……橋が反り返ってるから……」
「は、はい……」
太鼓橋は反り返ってるもんでしょ?
住吉大社の太鼓橋なんかもっと反り返ってる……
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課長も……わたしと付き合い始めた頃は、ホテルで服を脱いだら……でも今は……もうすっかり……
やだ、わたし……なに考えてんの?
橋を渡ると、本殿が見えてきた。
といっても、御本殿は124年ぶりとなる「令和の大改修」中。
その変わり、改修中の本殿の前に「仮殿」が建てられていた。
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パンフによると、仮殿のデザイン・設計は大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーも務める藤本壮介氏が担当したらしい……
え、大阪万博ってあの木製リングを設計したあの人…………?
「道真公を慕う梅の木が一夜のうちに大宰府まで飛んできた飛梅伝説から着想を得て、鎮守の杜の豊かな自然が御本殿前に飛翔し、仮殿としての佇まいをつくり上げることがコンセプト」
だそうだ……でも木製リングの先入観なしに見ると、なかなかモダンで良かった。
「見なさい、未桜くん……木が屋根にモッサリだ……」
「は、はい……」
なんなの。
モッサリだったらなんだっていうの……?
「神様を祀る神聖な本殿に、あんなに緑がモッサリと……なんというか、聖なるものと俗なるものの調和と融合を感じるね……」
「はあ……」
だから、モッサリがなんなの?
わたしに、何が言いたいの?
「それに……『内部を彩る御帳と几帳のデザインは、ファッションブランドのMame Kurogouchiが、音響監修はサカナクションの山口一郎氏率いる株式会社NFが、照明は面出薫氏率いる株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツが手がけ』たそうだよ……モリモリだね……」
スマホの情報を読み上げるように、西田課長が続けた。
「は、はい……モリモリですね……」
「そう……モリモリだ……」
そういうと課長はわたしの顔をちらりと横目で見て、好色な笑みを浮かべた。
「この奥にお稲荷さんがあるらしいよ……おいなりさんが……」
「は、はあ……」
お・い・な・り・さ・ん
とはっきり、念を押すように発音する西田課長。
わかってる……この人が、なんとか今夜に向けて気分を盛り上げようとしていることは……
「行こうか、未桜くん……おいなりさんに……ふふふ……」
「は、はい……」
しかし、太宰府天満宮の奥の奥にある天開稲荷社への道のりは、想像以上にハードだった。
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行けども。
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行けども。
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行けども……果てしなく石段が続く。
わたしより18歳年上の課長は、わたしの7段ほど下で這いつくばっている。
「はあ、はあ、はあ……だ、だ、大丈夫ですか……課長……」
「はあ、はあ、はあ……だ、だ、だ、大丈夫だ……未桜くん……き、君は……だ、だいじょうぶかね……はあ、はあ、はあ……」
「こ、これって……道、合ってますよね……だ、だって鳥居、ちゃ、ちゃんと続いてますもんね……」
まさかわたしたち……
二人して罰当たりだから狐に化かされているんだろうか……?
「だ、だ、だ、大丈夫だよ……き、きっとこの上には、お稲荷さんが……」
登った。さらに登った。
すると……目の前に社が!!!
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「か、課長っ!! つ、着きましたっ!! お稲荷さんですよ!!!」
「お、おう……ちょ、ちょっと待って…………は、はあ、はあ、はあ……」
まるで「にっぽん百低山」ですらいいとこ見せられない吉田類のような西田課長……
もうすぐ老人。
体力も気力もなく、残っているのは性欲だけ……
わたし、ほんとにいったいなんで、こんな男と不倫してるんだろ……
「お、お、お稲荷さんだ…………お、お、おいなり……さんだ……」
そこで、わたしは恐ろしいことに気づいた。
「か、課長……」
「……な、なんだね、未桜くん……」
「ま、まだ上があります……」
「な、なに……??」
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さらに奥の院があった。
「い、行きます……か?」
「う、うむ……せっかくここまで来たんだし……」
無理しなけりゃいいのに……
でも、やはりこの男はけち臭い男なので、ここまで来たからにはおいなりさんをしゃぶりつくしたいらしい。
で、わたしたちは登った。
そして奥の院にあったのが……これだ。
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「なんか……すごい雰囲気ありますね……」
「しゃ、写真……撮っとく?」
「あ、はい……で、でも……なんかシンレーが映りそうですね……」
パワースポット感スゴいが、それに比例して霊気もハンパなかった。
わたしは鬼太郎じゃないが、妖怪アンテナが三本立つ。
「君が撮りなさい」
「は?」
「いや、君はスマホで撮りなさい……私は撮らないから」
呆れる。
心底呆れる。
「あの……課長、ひょっとしてシンレーが怖いん……ですか?」
「ば、バカを言うんじゃない! わ、私はその……もし妻にスマホを見られでもしたらだな……仕事の名目で家を空けているのに、こ、こんなところを訪れていることを知られると……へ、へんな疑いを掛けられるのがイヤだから……」
「はあ……」
え?
ちょっと待って?
「心霊とか怖くない」って言い訳に、そういうこと言うわけ?
ここにきて言うのが、妻に疑われるのがイヤだとか、なんなのこの男?
頭どうかしてる?
てかそのへんの手ごろな石拾い上げて、こいつの頭ぶち割る?
ここ、人気もないし……
いや。
いやいやいやいや。
いくらなんでもここは俗世と隔てられた聖地だ。
そんなところで殺生なんて……バチ当たりすぎる。
旅情ミステリー小説ならまだしも。
「行きましょうか……課長」
「う、うん……そうだな……あっ……未桜くん、こっちに行くと国立博物館があるらしいぞ!! 行ってみないか?? ……こ、こっちだ!」
「は、はあ……」
課長に手を引かれ、国立博物館を目指した。
……が…………
お稲荷さんの近くにあった「国立博物館はこちら」と軽く書かれた標識を頼りに歩いたが……
その山道(いやほんとに山道)は行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども…………遥か遠かった。
「こちら」じゃねえ!!!
※これから太宰府天満宮本殿→天開稲荷社→国立博物館に行く人は気をつけてね!!
疲れ果てたわたしたちは、菖蒲の咲く池のほとりの食堂で、肉うどんを食べた。
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で、その晩はそのまま宿に帰って、食事をして、お風呂に入って、やっぱりセックスをした。
なぜか西田課長は……めちゃめちゃ激しかった。
菅原道真公か、それともお稲荷さんの御利益だろうか。
最近飲んでる新しい薬のせいだろうか。
翌日、私たちは帰りの飛行機の時間まで福岡市美術館に行き、たまたまやっていたKYNEというアーティストの特別展示を見た。
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わたしはこの旅行が終わったら課長と別れることを、心に決めた。
<了>