書評「Super Salamander #04 〜箱根駅伝実況Tweet分析2018〜」
この本を読みたいと思ったのは、1枚のペーパーを手にとったのがきっかけでした。
このペーパーを読んだ時、僕は大笑いさせてもらいつつも、衝撃を受けました。なぜなら、いままでこんなスポーツに関する分析レポートは読んだことがなかったからです。
このペーパーを発行している「こへだ」さんという方は、「EKIDEN NEWS」というアカウントや、「オトナのタイムトライアル(OTT)」という手弁当で運営されているトラックレースのアカウントで「ツイ廃夫婦」と言及されている夫婦の奥様でいらっしゃいます。
「ツイ廃夫婦」は、毎年箱根駅伝が始まると、まずはエントリー表をプリントアウトして手元に置き、テレビは日テレ、ラジオはNHK第一ラジオにあわせ、さらにスマホのradikoで文化放送につなぎながら、PCとタブレットとスマホを駆使して、箱根駅伝に関するあらゆる情報を浴びるように摂取しながら、異常な数の箱根駅伝実況Tweetを繰り出す、文字通り「ツイ廃夫婦」なのです。
ただ、こへださんとこの話をしたとき、僕はあることに気がつきました。それは、ほとんど同じことを僕もやっていたのです。
こへださんとお会いした時、僕は「初めて同じ箱根駅伝の楽しみ方をしている人がいた!」と、嬉しくなったのを覚えています。したがって、僕は勝手に2人のことを「先生」と呼んでおります(お二人はとっても迷惑しているということは付け加えておきます)。
そんなこへださんは、同人誌のサークル「超山椒魚」を運営していたりするのですが、2018年夏のコミケのブース出展にあわせて、1冊の同人誌を作りました。
同人誌のタイトルは「Super Salamander #04 〜箱根駅伝実況Tweet分析2018〜」。そう、箱根駅伝のTweetを分析したペーパーの同人誌版です。
前置きが長くなりましたが、本書には2016年〜2018年にかけて、箱根駅伝に関するTweetを、「全体」「大学別」「人物別」「ハッシュタグ」「公式アカウント考」という5つの項目について、全23P(編集後記含む)に渡って考察した、一体誰が読むのか、いや、僕が読まなければ誰が読むのだ!という、全国の箱根駅伝で「ツイ廃」になってしまう人のための1冊です。
内容を詳しく紹介したいところではありますが、同人誌であるがゆえに書いていることもあると思いますので、1つだけ書いてあることを紹介していると思います。
Tweet量が増えるのは、競技のパフォーマンスだけが要因ではない
本書を読んでいると、ある事に気がつきます。それは、箱根駅伝のTweet量が増えるのは、競技のパフォーマンスだけが要因ではない、ということです。
そんな傾向が現れるのは、選手に関するTweetです。選手に関するのTweeet量を分析すると、青山学院大学(現:GMOアスリーツ)の下田裕太が1位なのですが、下田が区間賞を獲得しているというだけでなく、日頃「アイマスP」に関するTweetをしており、Twitter上では「日本一足の早いオタク」と言われていたりします。
Twitterはアニメやマンガに関するファンがよくTweetするので、アニメやマンガのファンからの支持を受けていると、選手に関するTweet量が増えるのです。
Twitterならではの盛り上がりを象徴するのは、3位に小野田勇次が入っていることです。
小野田の活躍も要因ではあるのですが、盛り上がりの要因は、女子に人気のマンガ・アニメ「弱虫ペダル」と「テニスの王子様」です。
なぜ箱根駅伝で「弱虫ペダル」と「テニスの王子様」なのかというと、「テニスの王子様」の主人公が所属する学校が通称「青学(セイガク)」で、「弱虫ペダル」の主人公が「小野田くん」。そんな中、小野田くんが6区で東洋大を抜いて1位になり、区間賞になったので、「青学」「小野田」がTwitterのトレンド入りを果たします。
さらには、「弱虫ペダル」は箱根の山が物語の重要な局面で登場する物語で、「青学」「小野田」「箱根」と揃った結果、普段箱根駅伝を見ない女子アニメオタクが、Twitterになだれ込んでくるという現象が発生しました。そして、畳み掛けるように、アニメ「弱虫ペダル」公式Twitterアカウントが、このネタを拾ったことで、一気に拡散しました。
箱根駅伝は人間ドラマを描くドキュメンタリー番組
こへださんに教えて頂いたのですが、日本テレビは箱根駅伝中継を「スポーツ番組ではなく、人間ドラマを描くドキュメンタリー番組」として制作しているそうです。
スポーツとの距離が近かったり、愛着がある人ほど、こうしたTwitterの傾向には、眉をひそめるかもしれません。ただ、こうした競技の結果以外に、二宮のフリーザさん、1区に登場したアンパンマン号など、競技以外に興味を持ちやすい入口が、自然発生的にいくつも用意されており、ファンも入口を自ら作ることを楽しんでいるからこそ、関東学生陸連が主催する駅伝大会という枠を超えて、多くの人に親しまれているのではないか。そんなことを考えました。
本書は同人誌というフォーマットゆえに、ふざけているように思えるかもしれませんが、僕としては2018年8月現在、ソーシャルメディアとスポーツの関係を知りたければ、最も読むべき1冊と断言出来る書籍です。数百冊のスポーツ関連書籍を読み、書評を書いてきた僕が言うのですから、間違いありません。
残念なのは、同人誌ゆえに、多くの人が読むのは難しいということです。ただ、また書いてくださるそうなので、次回を楽しみにしたいと思います。