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『ルックバック』と藤本タツキと東日本大震災


先日、この記事を読んだ。

素晴らしい記事だと思った。
『ルックバック』というタイトルの小ネタや伏線、そして、佐伯さんの考察が交じった読み応えのある記事だった


そうか、『ルックバック』は、京都アニメーション放火事件の話なのか……と今更ながら知った。
実際にWikipediaの情報で、藤本タツキさんは、「涼宮ハルヒの憂鬱」や「日常」などの京都アニメーション作品が好きだと書いてあった。
それを知ると、なおさら佐伯さんの考察にも納得できる。


しかし、『ルックバック』には、京アニ事件だけでなく、東日本大震災の影響もあると思う。

藤本タツキさんの出身は秋田県。
そして、東日本大震災のとき藤本さんは東北芸術工科大学に入学した年。

藤本さんの短編集「17-21」のあとがきに、このようなコメントがある。

17歳の時に僕は山形の美術大学に入学しました。
東日本大震災が起こったすぐ後だったので、このまま絵を描いていいのだろうかも皆思っていたはずです。
絵を描いても意味がない気がして、何か少しでも役に立ちたいと石巻に復興支援のボランティアに行きました。
(中略)
30人くらいで一日中やったのに全然できなかった事に無力感を感じ、帰りのバスの中でも皆沈んでました。
(中略)
また、何度か悲しい事件がある度に、自分のやっている事が何の役にも立たない感覚が大きくなっていきました。

藤本タツキ短編集17-21      藤本タツキ
(大学入学時が17歳……?)

このコメントを読んだ時、私は驚いた。

藤本タツキさんといえば、漫画「チェンソーマン」の作者で、そして、藤本さんにまつわる数々の噂や奇行エピソード(?)を聞いていると、「この人はいわゆる天才、そして、ある意味で奇人…」と、私は勝手に偏見づけていた。

だから、このコメントで私のなかの藤本タツキはガラリと印象が変わった。
もちろん、天才であることには間違いはないんだけど、なんていうか意外と繊細だったり、真面目だったりするのかな…と。(なんだか俗な言い方になるが)

このコメントを知ってから、『ルックバック』の見方も少し変わった。
作中の主人公である藤野が藤本タツキさんに思えるのだ。

藤野が京本の死を知り、「なんで描いたんだろ….。描いても何も役にたたないのに…」と苦しそうに呟くシーンがある。
これは、震災に対して何もできなかった無力感を抱える藤本さんの想いそのものだと思う。

でも、その悲痛な想いを変えてくれたのは、京本の存在であり、藤野が京本に救われるのと同時に、藤本タツキも救われたのだろう。

物語の最後、藤野が前だけを向き、自分の机に向かっていくところは、藤本タツキの背中にも見える。
そして、藤野は京本の四コマ漫画を机の上の壁に貼り、いつでも原点に戻って、過去を振り返れるようにする。
この四コマ漫画は、藤本タツキにとっては、震災であり、その他数々の悲しい事件であり、忘れてはいけないものなのだろう。


前に進むために、
原点に戻れるように、
忘れないように。

『ルックバック』


もう一度、観たい。






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