めんこいこけしの今どき事情・その①
こけしの思い出と言えば、子供会の行事でこけしの絵付け体験くらいのもので、家には茶色に日焼けした古めかしい、いつからあるのか分からない大小のこけし達がカラーボックスに上下関係なく、すし詰めに押し込められるように収納されていた。その姿に時々ホラーを感じる程だった。
言い換えれば、私の生まれ育った環境はこけしが溢れていたと言える。
何を思い立ったか、たまにこけしを引っ張り出してまじまじと見ると、ミミズが這ったような細い目元にチョンと付いたおちょぼ口のおかっぱ頭はハッキリ言ってブサイクだ。
着物模様は健気に咲く黄色の小花で、いかにも控えめ女子を演出しているのにブサイクでは救いようがない。
こけしは東北地方の郷土玩具として誕生したと聞いたが、どうやって遊ぶんですか?とやたらキレぎみで聞きたいくらい、ほぼ興味ゼロの私だった。
そんな私が身銭を切ってこけしを買った。
これは事件である。
宮城県白石市に弥次郎こけし村という所があり、私はそこで初めてこけしを買った。
そのこけしは、めんこいこけしだった。
こけしには作られた地域ごとに○○系こけしと区分され、推しこけしなる不思議な現象も起こるほどだ。
弥次郎こけし村にはこけしの歴史が分かるミュージアムや広い中庭にはいくつかの小屋が庭を囲むようにして立っていて、小屋はこけし職人の作業場として使われていた。
私が訪れた時は平日だったので、ほとんどの小屋は家主不在であったが、煙突から立ち上る煙とろくろで木を削る音に誘われてある小屋に入った。
引き締まった体型にラフなポロシャツの男性は黙々とこれから誕生するこけしに手を当てて、表面の凹凸を確認している。
壁には数えきれないくらいのこけしが並べられていて、中には値札が付いているものもあった。
チューリップがモチーフのように見えるピンクのカラフル模様の胴体にクリクリの目の可愛らしいこけしが気になり思わず手に取った。
胴体はリンゴのように丸みを帯びている。
「そんな感じで、最近のアイドルみたいな顔にしないと売れないんだよねぇ。」
ろくろの手を止めてこけし職人さんがつぶやいた。
「こけしの顔って、本当は違うんだけど、我々も思考錯誤だよ。伝統を貫いても人は興味を持ってくれなくて廃れるもんね。時々、そんなこけしも作ってるの。ウケがいいんだよ。元々の顔にしたままだと若い人たちは興味持たないんだよね。複雑な気持ちになる時もあるよ。」
壁に整列しているこけしの顔はそれこそ十人十色、カワイイこけしもあれば定番のブサイクこけしもある。
私が目のクリクリしたこけしに目が向いたと言うことが、ご主人が話す「かわいくないと人は興味を持たない。」を物語っていた。
ご主人の話だと、最近とある有名なメーカーから青いこけしを作ってくれと言う相談があり、はじめはビックリしたと言う。
かわいい顔にしたり、青く塗ったり、本当は本意ではないかもしれないが、世間のリクエストを受け入れて郷土玩具を未来につなぐための作業を威張りもせずに淡々とこなす。まるで伝統を現代に繋ぎ止める、その細い糸と糸をよっていく姿に見えた。
つづく