【読んだ】ライオンのおやつ
おすすめ度 ★★★★☆
食べ物が美味しくて、ぐっすり眠れればそれで幸せ。
とっても温かくて良い話だった。ぬくぬく。
昨日読んだ「乳と卵」とのギャップがすごい。
まさに私の好きなサラサラ読める美しい文章で、とはいえ感動ドラマ仕立てにはなっておらず、良い意味でひねりがなくて、純粋。
死を扱っている重いテーマなのに、穏やかな気持ちになれた。
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ステージⅣの末期がんになった主人公、雫が最期を過ごす場所として選んだホスピス、ライオンの家。瀬戸内海に浮かぶ小さな島にある。
美しい海を見ながら、暖かい場所で残された時間を過ごしたいという雫の想いを100%満たしてくれるような、素敵な家。
キラキラした海、レモン畑、温かくてキレイな空気、整えられたきれいなシーツ、染み入るような美味しいごはん。
唯一のルールは「自由に時間を過ごす」こと。
たくさん我慢をして、痛みや苦しみに耐えてきた雫の心がどんどんほぐれていく。
時々入る闘病していたころの回想は、適度にリアルさがありつつも過去のこととして描かれていて、開き直ったような清々しさがある。
両親を事故で亡くし、叔父に育てられ、ずっと「いい子」でいた主人公が、自分を受入れて、認めて解放していく姿は、ただただ良い。
犬を飼う夢がかなって幸せいっぱいの描写も、犬のふわふわした感じまで伝わってくる。
「よかったねぇ、幸せでいておくれ」とおばあちゃんみたいな気持ちになる。
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秀逸なのが、食べ物。とにかく美味しそう。
病院では苦手だったお粥の美味しさを味わうシーンなど、美味しそうすぎて本当にお腹がなった。
お稲荷さん、サンドウィッチ、ベーグル、イイダコのおでん、豆花、カヌレ、ミルクレープ。書いててしんどくなるくらい美味しそう。
おやつ、というのが一つの大事な象徴になっていて、きっと作者も気合い入れて丁寧に書いているんだろう。食べることは生きること。
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ストーリーは着実に死に向かっているし、ホスピスに住む人達だから、周りの人も死んでいく。悲壮感が無いわけではない。
死ぬその瞬間まで、どう生きるかを考え、死の受容と否定を何度も繰り返す姿が描かれている。
きっと雫の立場になったら、こんな風に前を向いたり後ろを向いたり、泣いたり笑ったりしながら過ごすのだと思う。丁度いいリアルさ。
よくある映画みたいに、死を感動エンタメとしているものとは少し違う。
涙は出ないけど、染み入るような物語だ。
こんな死に方ができるのは、幸せなのかもしれない。
物語にも、病気になったからこそ出会えた人たち、美味しいご飯、おやつ、言葉、考え方、いろんなものに感謝するシーンが出てくる。
死をこんなに丁寧に迎えられるのは羨ましいことだと思う。
事故とかでもっと突然やってくるとか、病院で管に繋がれて何もわからないまま迎えるとかの人の方がきっと圧倒的に多いだろうから。
誰でもいつかは必ず来るものなら、こうやってしっかり準備して、最期の時間を満喫して死にたい。
あぁ、でもまだ死にたくないな。
子どもの成長をもっと見ていたいから。