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最短経路で換気する 「One-Way換気」

後藤 悠、本郷 太郎
日建設計

「三密」の一つである「密閉」は、窓がないなど換気が十分でない場所・条件のことを指します。この「密閉」を避けるために、偏りや滞留のない効率の良い換気の重要性がこれまで以上に高まってきています。ここでは、空気中の微細な飛沫核による感染を防止する観点から、オフィス室内での平面的な風上・風下を作らずに、最短経路で効率よく換気を行う、One-Way換気について紹介したいと思います。

One-Way換気はなぜ有効か?

換気や空気の質は、建築の分野では決して新しい要素ではなく、健康で安全安心な居住環境のための基本的な条件であると同時に、快適性維持のためにも大変重要な要素であるといえます。
オフィスにおける換気の量に関しては、コロナ以前より、室内の空気清浄度を維持するため、1時間あたり室容積の2倍相当(2回換気)、1人あたり30㎥の外気を取り入れることが推奨されており、この換気量を保っていれば、密閉には該当しないといわれています※1。
Withコロナのオフィスでは、この換気を無駄なく、いかに効率的に実現するかがカギとなります。
一般の換気システムでは、天井面から室内に新鮮な空気を吹き出し、よく拡散した空気を天井面で吸い込み、屋外へ排気します。この場合、排気すべき空気と同時に新鮮な空気も一緒に排出されるので、入れ替わる空気の量は、換気風量の50%程度となります。
そこで注目されるのが、かき混ぜるのではなく、空気の流れを一方向にすることで換気効率を上げる手法で、ここでは「One-Way換気」と呼びます。この方式の場合、天井面から新鮮な空気を吹き出し、床面から排出する(または床面から吹き出し天井面で吸い込む)ので、新鮮外気は室内の空気とかき混ぜられることなく、最短経路で人に供給され、最短経路で排出されます。
※1 空気調和・衛生工学会HPより

NOTE用図(One-Way換気).r4 -01

図1:一般換気のイメージ

NOTE用図(One-Way換気).r4 -02

図2:One Way換気のイメージ

このOne-Way換気は、室内の空気の質を高めつつ、快適性、健康性(Wellness/ウェルネス)を向上するための手法として、以前から実際の建物に採用されています。その実践例として、空気調和・衛生工学会学会賞を受賞した2つのオフィスを紹介します。

天井全面から空気を吹き出す快適でクリーンなオフィス

~日本生命保険相互会社東館の事例~

日生東館00

図3:日生東館のOne-Way換気イメージ

上から下への「One-Way換気」を採用した事例の一つが、日本生命保険相互会社東館(以下、日生東館)です。
一般的にオフィスの空調は、冷房時に足元が冷えたり、空調の風が直接あたったりして、特に女性が不快に感じる原因となっています。そこで執務者の約9割が女性である日生東館では、それらの課題を解消するため、天井全面からじんわりと吹き出し、床から排気する空調・換気システムを設計しました。

普通の空調は風速2.5m/s程度で吹き出しますが、日生東館ではその50分の1、風速0.05m/sという微気流を上から下に流しているので、室内で空調の風を不快に感じることはまずありません。そして、床から排気することで、足元に冷気が溜まらなくなるため、夏場のひざ掛けは不要となりました。
また、天井を金属製のパンチングパネルすることで、空気を吹き出すときに天井全面をひんやりさせます。このひんやり効果で室温を28℃程度にしていても26℃と同じくらい快適に感じるという実験結果も得られました。

日生東館01

図4:天井全面からじんわり吹き出し床から排気する空調・換気システム

そして、この「One-Way換気」は、室内の空気をかき混ぜたり、横方向に流したりせずに効率よく最短経路で換気ができるため、オフィスの安全を守るwithコロナの換気方式としても有効だと考えています。

ウェルネスオフィスを目指して

~YKK80ビルの事例~
都心のオフィス勤務から在宅勤務に変わったことで、通勤から解放され、家に居ながら仕事をするということに新鮮な驚きや喜びを感じた方も多いのではないでしょうか。
皆が集まって時間を共有するオフィス空間だからこそ、家のようにくつろげる快適な環境にすること。これをコンセプトの一つにしたのがYKK80ビルです。帰りたくなる家ならぬ、行きたくなるオフィスを目指したわけです。

NOTE用写真(YKK80ビル)© 鈴木研一.r1

図5:YKK80ビルのオフィス内観

YKK80ビルは、執務者にとって安心で快適な、家のようなオフィス、すなわちウェルネスオフィスを、できるだけ少ないエネルギーで実現することを目指しました。
換気システムはそのための大切な要素となっています。
この換気方式では、空調した新鮮外気を天井パネルの隙間からじんわりと室内に染み出させて、床面で全てを吸い込んで排気する「One-Way換気」を実現しています。

NOTE用図(YKK80ビル).r2

図6:YKK80ビルのOne-Way換気イメージ

このオフィスでは、室内で発生する熱負荷除去と室温調節を放射空調で行うと同時に、換気はすべて新鮮外気を供給し、再循環せずに全量を排気するため、安全性の高い方式となっています。
換気量は通常時は2回/hとし、春や秋の外気温度が良好な時季は最大8回/hまで確保することが可能です。毎年実施されている執務者へのアンケートにおける、年間を通じた空調換気への満足度は80%を超えています。
また、真夏限定で放射冷房に微気流のそよ風を付加するシステムも採用しており、室温を過度に低くすることなく快適な環境を実現したことも、評価につながっています。
都市型環境共生建築としての計画意図は、換気方式をはじめ多くの点で新型コロナウィルス対応と親和性が高いことが分かってきました。竣工後5年を経た今年は、ニューノーマルでの働き方を模索するクライアントとともに、新たなオフィス環境の実効性の検証に取り組んでいるところです。

おわりに

快適性、健康への配慮をコロナ以前からすでに実践しているオフィスとして、換気の観点を中心に2つの事例を紹介しました。
多数の人が利用する建物内の換気や空気の質への配慮という点で、ここで示した例は、いずれも高いクオリティの環境を保ちながら執務者に安心を提供することに成功した好例であるといえます。
トータルな建築環境デザインにおいて、安心やウェルネスといった人々のQOL:Quality of Life(生活の質)に関係するデザイン思想が今後ますます大切になってくると感じています。
そこで、忘れてはならないのは、これらを持続可能性と両立する視点です。窓を開けながら、エアコンをつけっぱなしにしておくというのは、長い目で見て正しい空調・換気手法とは言えません。省エネルギーにも配慮し、地球に愛され、持続可能な建築環境を提案し、新しい生活様式の現在とこれからを支えていくことが、コロナ時代を生きる私たちの使命であると考えています。

図5:©鈴木研一


後藤

後藤 悠
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト
グランフロント大阪における超高層オフィスの自然換気、日本生命保険相互会社東館における層流放射空調、京都市役所分庁舎での地下水・太陽熱利用空調、阿南市役所でのシーリングファンなどを担当し、空気調和・衛生工学会学会賞等を受賞。

本郷

本郷 太郎
日建設計 クライアントリレーション&ソリューション部門
ソリューション部 MEPエンジニア
押上駅前自転車駐車場、国立西洋美術館設備等改修、エビススバルビル、住友商事次世代オフィス(室外機芋緑化)、中部電力千代田ビル設備等改修、YKK80ビルなどを担当。ASHRAE Technology Awards First Place、空気調和・衛生工学会技術賞、サステナブル建築賞国土交通大臣賞などを受賞。



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