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【短編】『夜の訪問者』
夜の訪問者
メアリーは部屋中の電気を消しカーテンを目一杯開けてから空に満月が出ていることを確認し鍵を開けてすぐベッドに入った。部屋の中を月明かりが駆け抜けメアリーの膝下の方までをくっきりと照らした。メアリーは影に隠れいつものように月夜にあの人が来るのを待ちわびていた。あの人は満月の夜にしか姿を現さないのだ。今まで何度か影を見たが、一瞬でいなくなってしまった。今度こそその人の顔を見ていたいと思いながらメアリーは布団の中で体を温めた。
メアリーが待ちくたびれてちょうど寝入ってしまった頃、その人物はやってきた。すでに月は落ち始め、メアリーの寝顔を真っ向から捉えた。するとすぐにその寝顔は人影に包まれた。長らくして窓が開くと、彼は大きな袋を抱えて腰から微かに金属の音を立てながら部屋の中へと入ってきた。メアリーはそんなことは知る由もなくぐっすりと眠り込んでいた。かの人はゆっくりと足を引きずりながら、メアリーの部屋をくまなく観察した。
ようやく動きを止めたかと思うと、ベッドの奥にある大きな棚に目を光らせて近寄って行った。棚の引き出しを開けると、中には人形やおもちゃがたくさん入っているのだ。どれもメアリーのお気に入りで優しいおばあちゃんが買ってくれたものだった。月が彼の怪しげな微笑みを捉えると同時に、彼は早急に中に入っている人形やおもちゃを袋に入れ始めた。袋にはすでに何かが入っていたようでプラスチックの音や金属の音が時々部屋の中に響いた。咄嗟にその人は手を止めてメアリーの顔を覗いた。メアリーは依然としてすやすやと寝息を立てて寝ていた。かの人は今のうちに部屋を出て行こうと思うばかりに、慎重に袋を引きずって窓の方へと向かった。先ほどはすんなりとベッドと壁の隙間を通れたものの、容量が大きくなってしまったせいかなかなか運ことに困難を要した。この間にもメアリーが起きてしまうのではと思いながら、必死に袋を腕に抱えて窓の外へと運ぼうとしたその時だった。突然袋の中に入っていたおよそタンバリンを手に持ったサルであろうおもちゃが大きな音を立てて踊り始め、部屋中に楽曲が響き渡った。メアリーはすぐに目を覚ましあたりを見回した。しかし、すでにあの人は姿を消していた。開いた窓から風が入りカーテンを静かに揺らすのを見て、今日もあの人の顔を見ることができなかったと悲しみに耽ろうと目を落とした。すると、ちょうど窓の下に何やら大きな袋のようなものが置いてあるのだ。メアリーはベッドから飛び起きその袋の中を覗いた。ちょうど反対側の窓から月が顔を出してスポットライトのごとく袋を照らした。メアリーは寒さのせいで白く帯びていた頬を若干赤く染めてにこりと笑みを浮かべた。中にはおばあちゃんに買ってもらったおもちゃの他に欲しかった人形やアクセサリー、お菓子までも入っているのだ。メアリーはおばあちゃんにプレゼントをもらった時のことを思い出したと同時に、他の品々にも目を輝かせた。あの人の顔を見ることはできなかったものの、彼からの贈り物を目の前にすでに大満足だった。メアリーは窓の外に向かって親が起きないぐらいの声でそっと叫んだ。
「ありがとう!」
翌朝、メアリーはその出来事を事細かく父親に話した。しかし父親はメアリーが思うほどその話に魅力を感じてはいなかった。
「見知らぬ人を家に招き入れたのかい?それもプレゼントを残していった?」
「うん」
「メアリー、それは泥棒だ!その男はいつ来たんだ?」
と突然血相を変えて質問をしてきた。
すると、夜通し絵本を書いてようやく寝床につこうとしていた母親が眠たげな顔で寝室から出てきた。
「あなたどうしたの、そんな慌てた声を出して」
「聞いてくれ。メアリーが泥棒を家に入れてしまったんだ」
「あらそうなの?困ったわね」
「メアリー、さっき話したことを全部ママに話すんだ」
メアリーは泣きそうになりながらも左腕の裏を軽くつねって必死にそれを堪えた。深呼吸をしてゆっくりと先ほどの話を語った。話していくにつれて父親は徐々に眉間にシワを寄せていったが、ふと母親の顔を見ると先ほどまで眠たげにしていたのとは一変して、興味津々にメアリーの話に聞き入っていた。話終える頃には驚きに満ち溢れた表情を見せていた。
「なあ、どう思う?」
と父親は母親に尋ねると、母親は何も口にすることなく考え事を始めた。すると突然駆け足で作業場へと向かったと思うと走りながら叫んだ。
「次の原稿のネタが思いついたわ!名前はクリスマスの夜に!メアリーありがとう」
絵本は完成を迎えると同時にすぐに出版されることとなった。本屋に並んだその絵本は訪れた親の目にとまっては皆に絶賛され、勢いよく世界中へと広まっていった。こうしてあの人の伝説は今でも毎年のように受け継がれているのである。それも赤い帽子と白い髭の衣装を纏って。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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