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今より少しやさしい世界につながっていきますように。
青春は、戦争の中にももちろんあります。恋をしたり、音楽を聴いたり、野球をしたり、仲間がいて、笑いあったり泣いたり怒ったり。
若いからこそ、せつなく逞しい「青春と戦争」の3冊を紹介致します。
僕たちの戦争 萩原浩
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2001年の現代で生きる19歳の尾島健太と昭和19年の石庭吾一の時空を超えた入れかわりもので、それぞれの個性が対照的でおもしろい。
霞ヶ浦海軍航空隊飛行術練習生の吾一の目に映る現代がコミカルで笑えるし、シニカルでもあります。
じつにくだらない。ただただ騒々しい。惚れた腫れた。儲かる。痩せる。健康になる。綺麗になる。他人より立派に見られる。そんな欲得と享楽を助長する情報の垂れ流しだ。未来人たちの色と欲への執着は吾一たちの時代の人間に比べてはるかに強いように思われる。嘆かわしい。
吾一にとって、現代はくだらないかもしれないけど、戦争もこの欲があるから生まれたのかもしれません。現代もその要素があるのだなと思いました。
昭和19年にきてしまった健太は、入れ替わってしまった吾一として厳しい軍律や軍隊の理不尽なしごきを受けますが、ポジティブになんとか厳しい時代に順応し、やがて人間魚雷「回天」に乗る運命に導かれていきます。
五十何年前の戦争中の日本にいた人間たちは、俺たちとそんなに変わらない。いいやつもいれば、嫌なやつもいる。俺たちと同じように笑って、怒って、泣いて、悩んで、怯えて、信じて、誰かを好きになって、自分を認めて欲しがって。
過去も未来もつながるものなら、今を大切にしなければと思いました。おもしろくって泣ける、愛と青春の戦争小説のはじめの一歩としておすすめです。
出口のない海 横山秀夫
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甲子園の優勝投手である並木浩二は、大学野球に進みますがヒジの故障のため、思うような野球はできなくなりますが諦めず、魔球を生み出すという夢がありました。学徒出陣で、並木も徴兵され人間魚雷「回天」に出会ってしまいます。
野球と、仲間と、恋。青春の光と影と戦争の哀しみを落ち着いた静かな文章で、出口のない海へ誘います。
恋人への最後の手紙に落涙してしまいました。
君にお願いがある。
しばらく、僕の分身になってくれないだろうか。
僕が見ることのできなくなってしまったものを、君にみてほしい。
たとえば、今日の夕暮れの美しさを。
たとえば、夏の海のきらめきを。
たとえば、色づいた柿の赤さを。
たとえば、雪で覆われた高円寺の街並みを。
僕の代わりに見て欲しい。
(中略)
君には、生きて、生きて、もう嫌だというまで生きてほしい。
幸せに。どうか幸せに。
並木は、最後まで夢をあきらめていませんでした。世界中にいた、いる、たくさんの並木のように、彼らのかわりにたくさんの景色をこれからも見ていかなくてはと思いました。
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群青に沈め 熊谷達也
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1945年、夏。17歳の浅沼遼一が特攻要員として配属されたのは、「伏龍隊」。酸素ボンベを背負い潜水服を着て海中を歩行し、敵の敵の舟艇に銛のような棒状機雷をえいやっ!と突きつける潜水人間機雷です。
来るべき「死」へ向かって訓練を重ねる日々で、戦場にもいかずに仲間たちが、さまざまな形で死んでいきます。
普通の少年たちを戦争という日常の中で捉え、みずみずしく生き生きとしています。17歳だからこその明るさ、ユーモアがあります。だからこそ、哀しいし、エネルギーがあります。
群青に沈め、の行く先は兵器でなく南部潜りという血、海という美しい自然。磯の香り、海風。
それを感じることができた遼一くん、きっと大丈夫。
群青に、進め、未来に進め。
ご紹介した3冊、大きな声で反戦を唱えているわけでは決してありません。
『僕たちの戦争』の吾一は、平和ボケした現代よりも戦時下に戻りたいと思ってます。そこが自分の場所だから。『出口のない海』の浅沼は、どんな辛い状況にあっても、笑顔でした。夢があったから。『群青に沈め』の遼一は、普通の17歳の少年の死が身近にある日常です。
彼らに心を寄せ、想像し感じ考えていければ、今より少しやさしい世界が広がっていくと思います。