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サクリファイス(犠牲)は生き残るため 未来のため誰かのため
東京オリンピック2020自転車ロードレースで入賞圏外の集団が、234kmの戦いを終えてのゴールに向かう中に新城幸也選手が後方2列目にいました。新城選手の隣りの選手が、彼に何か話しかけている様子があり、そのあと周りの選手が新城選手のために道を開けてくれて新城選手が彼らより少し先にゴールしました。
ここは、日本だぜ。おまえ先にいけよ。
そんな会話があったのかも。戦っていたときはお互いライバルでも風の抵抗を避けるため先頭交代したりと協力し合うことがある自転車ロードレースは紳士のスポーツと言われています。
自転車ロードレースと青春とサスペンス。大藪晴彦賞受賞。2008年本屋大賞で2位(このときの1位は『ゴールデンスランパー』)
サクリファイス 近藤史恵
ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすこと。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に封印された死。
自転車ロードレースは、チーム戦で行われる競技です。ひとりのエースを勝たせるために、他の選手はアシストで犠牲(サクリファイス)が使命となります。
アシストが勝負所まで、エースを引く。アシストの力が限界になったとき、それを踏みつけて飛び立つ鳥のように、エースはゴールに向かう。その瞬間のアシストの気持ち。爽快感もある。
ひどく眩しく、そして悔しいような複雑な感情と、一方で自分の仕事を終えたという充足感。きっと一生忘れないだろう。
エースも責任と孤独と覚悟を抱えています。
俺たちはひとりで走っているんじゃないんだぞ。非情にアシストを使い捨て、彼らの思いや勝利への夢を喰らいながら、俺たちは走っているんだ。だから、それを汚す奴は許さない。自らの勝利を汚すことは、アシストたちの犠牲をも汚すことだ。
紳士的で残酷で美しいスポーツだ。
エースとアシスト。ロードレースの世界だけでなく仕事でも人間関係でもあるけど、お互い信頼がなければできない。アシストがエースの役割をすることもあるし、エースが犠牲になることもある。それは勝利のためだけではない。生き残るため。未来のため。誰かのため。
自転車ロードレースが好きな人はもちろん、そうでない人もこの美しく残酷な世界を知ってほしい。ミステリーとしても楽しめます。