
古傷の痛みを感じながらかさぶたを撫でている
吸引力、と言っていたのは『国境の南、太陽の西』(村上春樹)のハジメくんで。12歳のときに出会った島本さんに、28歳で見かけて36歳で出会う、
吸引力、恋愛だけでない、どうしょうもないなにか。惹きつけられてしまう人、気になる人。
高校生の女の子が惹きつけられたのは77歳の犯罪者だと噂されている人だ。
彼に吸引力が働き、彼のことを語っている。
高校生、55歳の母親と30歳の母娘、40代夫婦、70代と様々な年齢の人たちの花がある。
わたしの知る花 町田そのこ
犯罪者だと町で噂されていた老人が、孤独死した。部屋に残っていたのは、彼が手ずから咲かせた綺麗な《花》―。生前知り合っていた女子高生・安珠は、彼のことを調べるうちに、意外な過去を知ることになる。淡く、薄く、醜くも、尊い。様々な花から蘇る記憶―。これは、謎めいた老人が描く、愛おしい人生の物語。
亡くなった葛城平に関わった人たちが、各章で語り手になっています。語り手の年代性別が違いそれぞれが抱える事情が描かれ、彼らにとっての平への視点、想いが違いおもしろい。
平はどんな人間だったのか。真実はなにか。というミステリー的な要素もあるけど本当のことは彼自身と彼をうんと想って好きだった人にしかわからない。
どの章のタイトルにも花があり、その花が彼らを象徴していてタイトルの『わたしの知る花』は『わたしの知る葛城平』で、それぞれの知る彼が違うように、平に限らず『わたしの知る誰か』はわたしだけのものかもしれない。
第三章の語り手は、安珠の友だちの偏屈なおじいさんで、平とは違いお金持ちだけど嫌われている。だけど、安珠の幼馴染の奏斗との会話が微笑ましい。花はクレマチス。花言葉は精神の美。
77歳と高校生男の子。知り合ったばかりだからこそ言えることもある。信頼に血のつながりや積み重ねてきた時間、年齢は関係ない。ただこの人は大丈夫、とお互いわかる。
最後まで、生きていくしかないんだよねぇ。どれだけすれ違っても、大事な相手も生きていると思って、願って。ひとはそれしかない。たまに会えたら、めっけもんさ。
7歳で出会って、77歳の彼女の言葉だからの重みもある。
時間や年齢が関係なかったり、あったり。
私は、傷口が開いて血が流れている状況の物語を書くことが多いと思うんです。でも今回は、これまでとは違う、古傷の痛みを感じながらかさぶたを撫でている人が書けたらいいなと思っていました
古傷の痛みって誰にでもある。身体でないどこかに。
かさぶたをかきむしることをしないで、そっと撫でるような愛おしさがキュ引力になっているのかもしれない。