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魔力ある怪物となった雲

主人公の更紗の人生は、両親
の喪失とともに暗闇に包まれ
        ていきます。
そんな彼女に光をもたらした
のが、文という存在でした。

良い本というのは、いつ読ん
      でも心にしみる。
凪良ゆうさんの心揺さぶる物
語『流浪の月』を読みました。


流浪の月
凪良 ゆう (著)

最初にお父さんがいなくなっ
て、次にお母さんもいなくな
って、わたしの幸福な日々は
      終わりを告げた。
すこしずつ心が死んでいくわ
たしに居場所をくれたのが文
         だった。
それがどのような結末を迎え
るかも知らないままに――。
だから十五年の時を経て彼と
再会を果たし、わたしは再び
          願った。
この願いを、きっと誰もが認
       めないだろう。
周囲のひとびとの善意を打ち
捨て、あるいは大切なひとさ
えも傷付けることになるかも
         しれない。
それでも文、わたしはあなた
    のそばにいたい――。
新しい人間関係への旅立ちを
描き、実力派作家が遺憾なく
本領を発揮した、息をのむ傑
          作小説。

本屋大賞受賞作。

解説=吉田大助

流浪の月
凪良 ゆう (著)
Amazonより

15年の時を経て再会を果たし
          た二人。
社会の目、周囲の善意、そし
て大切な人々の思いを押しの
けてでも、更紗は文のそばに
     いたいと願います。
この願いは、まるで凍てつく
心に灯された小さな炎のよう
           です。

エドガー・アラン・ポーの言
葉が作中に登場することで、
物語はさらに深い意味を帯び
           ます。
ポーの詩的な言葉は、文の凍
りついた心を表現するかのよ
          うです。
心が徐々に凍っていく感覚は、
         胸が痛い。

Alone

子供時分からぼくは
他の子たちと違っていた
他の子たちが見るように見な
かったし
普通の望みに駆られて
夢中になったりしなかった。

悲しさだって、
他の子と同じ泉からは
汲みとらなかった
心を喜ばす歌も
みんなと同じ調子のものでは
なかった
そしてなにを愛する時も、
いつも
たったひとりで愛したのだ。

だから

子供時分のぼくは
嵐の人生の前の
静かな夜明けのころのぼくは
善や悪のはるかむこうの、
あの神秘に
心をひかれたのだった。

そして今も、そうなのだ。

今も、あの奔い流れや、泉に、
山のあの赤い崖に
金色にみちわたる秋の陽の
自分をめぐる輝きに
疾風のように空をよぎる
あの稲妻に
雷のとどろきに、

そして嵐に
そして雲に

(青い大空の中でそれだけが)

魔力ある怪物となった雲に
そうなのだ、
そんな神秘にひかれたのだ。

ポー詩集・加島祥造編「岩波文庫」より


この詩を読んでいると、凍り
そう…そしてこの詩は「文」
         そのもの。

文の闇
文は母親から深く傷つけられ
   た過去を持っています。
母親は、育ちの悪い庭の苗木
を引き抜いて捨てたように、
文を「ハズレ」として扱いま
           した。
この経験は、文に深い孤独感
と自己否定感を植え付けまし
            た。

文は性器が成長しない病気を
      抱えていました。
この身体的な問題は、文に大
きな苦悩をもたらし、「更紗
だけが大人になって、僕だけ
が大人になれない」という感
     情を抱かせました。

少年院を出た後、文は更生施
設で働くことを望みましたが、
親に強制的に連れ戻されまし
            た。
さらに、自宅の敷地内の「離
れ」に幽閉され、世間から隔
絶された生活を強いられまし
            た。
この経験は、文の孤独感をさ
        らに深めた。

更紗との過去の事件により、
文は「少女を誘拐、弄んだ卑
劣な変態野郎」というレッテ
     ルを貼られました。
この社会的烙印は、文の人生
 に長く影を落とし続けました。

更紗の闇
更紗は9歳の頃、叔母の家で
預けられていた際に、中学生
の従兄弟から性的虐待を受け
        ていました。
この経験は、更紗に深い心の
傷を与え、長年にわたって彼
女を苦しめ続けることになり
           ます。

性的虐待のトラウマは、15年
経った後も更紗を苦しめ続け
         ています。
悪夢となって彼女を襲い、日
常生活にも影響を及ぼしてい
           ます。

更紗は、自分を救ってくれた
文を犠牲にしてしまったとい
  う罪悪感を抱えています。
警察に真実を話せなかったこ
とで、文が誘拐犯として扱わ
れてしまい、この秘密が更紗
の心の奥底に棘となって残っ
         ています。

「被害女児」というレッテル
を貼られ、その烙印を背負っ
て生きることを強いられてい
           ます。
この社会的な烙印は、更紗の
自己認識や人間関係に影響を
       与えています。

文との再会後、更紗は複雑な
     感情に苛まれます。
過去の出来事を謝罪したいと
いう思いと、それを言葉にで
きない葛藤、文への不可解な
執着など、自身でも理解でき
ない感情に翻弄されています。

感想
凪良ゆうさんの『流浪の月』
 本当に心に響く作品ですよね。
社会のタブーや固定観念に真
っ向から挑んでいて、読んで
   いてハッとさせられます。

人間関係の複雑さを描くのが
上手くて、登場人物たちの心
の動きがリアルに伝わってき
           ます。
更紗と文の関係性なんて、言
葉では表せないけど、なんだ
か分かるような気がしてしま
            う。

読み終わった後も、しばらく
頭から離れなくて、ふと日常
の中で思い出したりするんで
            す。
そういう意味で、本当に心に
 刻まれる作品だと思います。

社会の端っこに追いやられた
人たちの姿を描いているのも
       印象的でした。
みんな何かしら苦しみを抱え
ているけど、それを理解し合
うのって難しいんだなって考
      えさせられます。

でも、そんな中でも希望の光
を見出そうとする姿勢に、勇
  気をもらえた気がします。
この本、私の中に長く心に残
   り続けるんだろうなぁ。

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